通信インフラ企業が色々と大変だ。ソフトバンクやO2など、世界各地で同時発生した通信障害で、ソフトウェアの問題が明らかになったEricsson、そしてCFO(で創業者の娘でもある)がカナダで拘束されたファーウェイ。それだけ重要性が高まったということだろうが、ファーウェイの一件は米中関係の悪化を象徴する出来事として、日本も含めた大手メディアが連日報道している。あらためて状況をまとめていこう。

カナダで身柄拘束されたCFOは創業者の娘

 ファーウェイを取り巻く環境が急展開している。2週前の記事からの間に、ニュージーランドがファーウェイ製品締め出しに動き、イギリスでもBTが通信インフラで同社の製品を使用しないという方針を出した。そして12月5日、カナダ司法当局がファーウェイのCFO、Meng Wanzhou(孟晩舟)氏の身柄を拘束したことを報じた。

11
カナダで身柄を拘束されているファーウェイCFO。創業者の実野娘でもある

 Meng氏が拘束されたのは12月1日。乗り継ぎで降り立ったバンクーバー空港でのことだ。拘束は米国の要請を受けてのことで、米国はMeng氏の身柄引き渡しを求めているという。米国が制裁中のイランに米企業の技術を供給しているというのが容疑で、2016年からイランと違法取引があるという報道もある。

 米政府の調査にはイギリスの金融機関HSBCが協力しており(HSBCは2012年、資金洗浄対策の不備により米当局に19億ドルの罰金を支払っており、その後5年間当局によりモニタリングされている)、不審な金銭の動きがあることが報告されているようだ。米政府は4月から、ファーウェイのイランとの違法取引に関する調査を開始していたという。

 ファーウェイはMeng氏の拘束について声明文を発表、「当社は本件に関してほとんど情報提供を受けておらず、また孟氏によるいかなる不正とみなされる行為も把握していない」とした。「ファーウェイは、国際連合、米国ならびに欧州連合の関連輸出規制・制裁を含め、当社が事業を行う国と地域のすべて法規制を遵守しています」と続けている。

米中貿易戦争の停戦と同じ日に拘束という衝撃

 12月1日といえば、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されたG20サミットにおいて、トランプ大統領と習近平国家主席という米中トップが会談し、貿易に関する協議を90日を期限に行なうことで合意している。要は、貿易戦争の90日間の停戦だ。その日に、中国の技術企業を象徴するファーウェイ創業者の娘が拘束された格好だが、どうやら米中間の協議とは別の動きだったようで、トランプ大統領は知らされていなかったという報道もある。

 中国政府はもちろん怒り心頭、外務省はカナダと米国の両政府に抗議して釈放を求めている。カナダのトルドー首相は政治的なものではなく、しかるべき機関による判断に基づくとした。

 その後の7日、バンクーバーで開かれた保釈聴問会では、ファーウェイと香港のスカイコムとの関係が1つの争点になったようだ。カナダ検察は、スカイコムを通じてファーウェイがイランの通信会社に米国企業の機器を提供していたという。

 Meng氏は2008年2月から2009年4月までスカイコムの取締役を務めているが、2013年1月にHPの機器をイランの通信事業者に販売しようとしたが、その際に無関係を主張していたMeng氏が虚偽を働いたという疑いもあるようだ。Reutersによると、Meng氏だけでなく、スカイコムの幹部はファーウェイと深いつながりがあるとのことで、両社の関係は2013年当初にわかっていたよりも深い関係があるとしている。

 なお、4月に大騒ぎとなったZTEも、米企業の製品をイランに違法に販売していたとして米商務省に輸出規制を受けた。今振り返るとZTEはあくまで前振り、米国にとっての本丸はより規模と技術の幅が大きなファーウェイだったことは今となっては明らかだ。

 Meng氏の保釈聴問会は12月10日に再び開かれる予定だ。米国に強制送還され、違法となると最大30年の禁固刑の可能性もあるそうだ。

日本政府の対応は社名を挙げないものの事実上排除!?

 Meng氏逮捕が明らかになったのと同じ日、大西洋の向こうの英国では、BTが自社通信インフラにおけるファーウェイの使用を減らすことを明らかにした。新しい技術である5Gはもちろん、インフラ維持が必要な4Gにおけるファーウェイ製品も段階的に減らすという。

 2015年に同じ英国のキャリアであるEEを買収した際、コアの3G/4Gネットワークからファーウェイの技術を排除する方針を固めていたと言うが、この時期に発表するあたり、米政府が西側諸国に圧力をかける中で表明せざるを得なかった感は否めない。同時期、イギリス情報局秘密情報局(MI6)トップのAlex Younger氏は、英国内の通信インフラにおける中国製品の役割について明確にしなければならないとする発言をしている。

 米国、オーストラリア、ニュージーランド、そして英国のBTなどが通信インフラからファーウェイ製品を排除する理由は、ファーウェイ創業者が人民解放軍にいたことがあるなど中国政府との関係があるため、同社製品を通信インフラに使うと中国政府による盗聴が可能になってしまうというものだ。これに対しファーウェイは、従業員による持株制度を敷いており、中国政府との繋がりはないと主張している。

 問題はファーウェイが本当に中国政府のスパイ行為に協力しているのかどうかだろう。ただ現時点では、ハッキリとした証拠らしい証拠を報じたものはない。たとえばファーウェイは英国で、自社製品の安全性を検査できるセキュリティーセンター「Huawei Cyber Security Evaluation Centre(HCSEC、”The Cell”)」を英政府と立ち上げており、HCSECでの作業はGCHQの一部であるNational Cyber Security Centreが国家インフラの安全性の観点から監視を受けている。

 そのHCSECが今年7月に政府に提出した報告書によると、コンピューターにより変換されたファーウェイのコードは一貫性を欠く部分があるが、不正アクセスなどの証拠は見つからなかったとしている。結論としては、「ファーウェイが英国の重要なネットワークに含まれていることによる国家安全のすべてのリスクが完全に緩和されているという保証は、制限的でしか確証できない」としている(https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/727415/20180717_HCSEC_Oversight_Board_Report_2018_-_FINAL.pdf)。

 さて日本では、12月7日付けで主要紙が、政府や自衛隊が使用する情報通信機器からファーウェイとZTEの製品を「事実上、排除する方針を固めた」と報じた。同日、菅義偉官房長官は記者会見中にこの件について、「サイバーセキュリティーの確保はますます重要」とし「さまざまな観点から取り組んでいきたい」と話すにとどめたとされている。

 中国政府は”Made in China 2025(中国製造2025)”として、ロボティクスなどの先進技術を通じてハイテクでリードを図る国家戦略を敷いている。技術での優位性で中国に追い越されるわけにはいかないというのがトランプ大統領の腹づもりだろう。

 一方で、ファーウェイ製品のクオリティーと価格のバランスを評価するキャリアは多い。この状態が続くことが世界の5Gにどう影響を与えるのかは気になるところだ。


筆者紹介──末岡洋子

末岡洋子

フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている