
また、中間層である正社員からアンダークラスへと転落していく典型的なパターンも目立ち始めた。
宮内純一さん(仮名)は高校卒業後、上京して都内の居酒屋チェーン店に正社員として採用された。出勤は仕込みが始まる昼からだが、仕事が終わるのは午前4時。繁忙期になると7連勤もざらにあった。それでも、「周囲に評価されたい」と懸命に働いた。
しかし、上司の要求は厳しくなるばかりで、「客を集めろ。寝る間を惜しんで考えろ」とプレッシャーをかけられた。期待に応えようとしたが結果が出ず、心を病んだ。
「出勤しようとしても体が動かない。それでも、『サボるな。気持ちの問題だ』と電話で怒鳴られる」
結局、医師の勧めで退職し、無職のまま治療に専念している。
若手正社員がブラック企業で使い捨てにされてアンダークラスに落とされる一方、中高年の正社員の転落のきっかけで見逃せないのが介護離職である。総務省の就業構造基本調査(12年)によれば、介護しながら働く雇用者は約240万人で、過去5年間で介護離職した人は48.7万人に上る。
「介護を中途半端にしたくない」と決意して退職したものの、親が亡くなり、いざ再就職しようとしても職がない。気付けば自身がアンダークラスになっていたという悲劇は絶対に避けてほしい。
はまったら抜け出せず、落ちてくる人をのみ込む泥沼のようなアンダークラスは広がり続けている。所得格差を示すジニ係数(上限の1に近いほど格差が大きい)は、税制などで再分配した後の値は直近では微減したものの、再分配前の値は右肩上がりで上昇している(下図参照)。これは、低所得層が分厚くなっていることの証しだ。