中国銀行Photo by Hiroyuki Oya

――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

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 次のような状況を想像してみてほしい。労働市場は低迷している。あなたは巨額の住宅ローンの返済を抱えているが、銀行口座の預金は目減りするばかりだ。さて、大枚をはたいて高級スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を買いたいと思うだろうか?

 これは都市部に住む中国人の多くが今直面している現実だ。過去2年にわたる「影の銀行」の高利回り投資商品に対する取り締まりで、金融リスクはやや低下した。だが一方で、高債務の家計から重要な収益源を奪っている。インフレが金利を上回るペースで加速しているため、銀行の普通預金のリターンは、実質マイナスに陥っているからだ。この問題を解決することは中国消費の安定、およびアップルのような中国の影響を受けやすい企業の先行きにとって、重要な鍵を握る。

 問題の根本的な原因は、中国工商銀行(ICBC)や中国銀行(BOC)といった国有銀行が、特権的な地位を占めていることだ。国有銀は個人の預金を一手に集め、国が定めた低水準の利子しか支払っていない。一方で、規模の小さい銀行に貸し出しを行う。こうした小規模銀行は実体経済への融資の多くを担っているが、金利を自由に設定することで、一般家庭の預金を競って集めることを禁止されている。つまり、国有銀は預金者と小規模銀行の間に立ち、預金者からは利息を奪い、小規模銀行の調達コストを引き上げることで、大きな預貸利ざやを稼いでいるのだ。

 大手銀行の利益追求の動きは、中国の家計の大きな足かせとなっている。家計が持つ最大の金融資産は銀行預金で、総額71兆6000億元(約1200兆円)に上る。仮に個人向け預金金利(加重平均)が1ポイント上昇すれば、家計にはさらに7160億元が行き渡る。これは最近の減税による家計への還元額3000億元(メリルリンチ推計)の倍以上の水準だ。

 家計を取り巻く環境は、影の銀行への締め付けでさらに厳しくなった。当局の取り締まりにより、高利回りの貯蓄商品の発行が激減。こうした理財商品の年率金利は、預金金利の2%に対して約5%と総じて高く、預金者に対し、低いリターンを増やす方法を提供していた。格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、理財商品の発行残高は2014 〜2016年に30兆元へと3倍近く増えたが、昨年7-9月期(第3四半期)までには24兆8000億元まで落ち込んだ。

 これらはすべて、別のところでも家計に打撃を与えている。なぜか。例えば、単に小規模銀行か、信用の高い国有企業に貸し出すことで、楽に収益を上げられる環境にある中で、国有銀がリスクの高い民間企業へとわざわざ融資することがあるだろうか? だが、こうした民間企業こそ、雇用創出を支えている立役者だ。

 中国の規制当局も問題を抱えていることは認識している。足元では、大型の譲渡性預金(CD)金利の小幅引き上げや理財商品に対する態度軟化など、やや改善の兆しも見られる。

 だがこれらの歩みは小さい。中国の消費は底割れしている訳ではないが、圧力がかかっているのは確かだ。ぜい弱な労働市場に加え、硬直した国家の銀行システムの下支えを家計に押しつけるのは、全く助けにならない。

(The Wall Street Journal/Nathaniel Taplin)