父親の葬式で
心身の限界を悟る

96年創業の頃の丁さん
96年創業の頃の丁さん

 2000年代初頭から2010年代半ばにかけてのおよそ15年間、丁は全力で走り続けた。毎日、広大な中国を飛び回って、社長たちのサポートに専心した。さらに7人の社長たちは、互いにライバル心を燃やして店舗拡大に努め、『大漁』の看板は中国全土に広がっていった。

 社長たちが頑張れば頑張るほど、丁の収入は雪だるま式に増えていったが、それと同時に丁の心身はぼろぼろに擦り切れていった。

 3年前、父親の葬式で自分が限界に来ていることを悟った。

「親父の亡きがらを前にしても何も感じないの。親父がまるで他人のように思えて、涙も出ない。人間らしい心が麻痺してしまったみたいに…」

 そして丁は、その頃から徐々に経営の一線から身を引いていき、日本と上海を行き来しながらの“隠居生活”を送るようになったのだ。

「今でもグループの人間たちは、俺をボスとして持ち上げてくれるよ。彼らにとってはカリスマのような存在なのかもしれない。でも、そんなのは本当の俺じゃない。仕事が嫌になったからと遊んで暮らしている。ただのワガママなバカ。アホなんですよ」

 丁はそう言って笑ったが、その眼は笑っていなかった。