マヨネーズの津波が襲ってくる!

「あのキッシュは飲みものです!」百戦錬磨の料理カメラマンが見た伝説の家政婦・志麻さんの実像と「感動三品」を全告白。

編集:テクスチャーといえば、印象的なのは本書にある「手づくりマヨネーズ」です。
 正直、試食前は、マヨネーズなんか市販のものでいいのでは、と思っていましたが、そんな自分を猛省するように、志麻さんのマヨネーズは素材の良さが滲み出ていて本当に美味しい。それを三木さんが、見事に、マヨネーズの津波が襲ってくるように、立体的に撮っていただいた。あの撮影現場のマヨネーズのたたずまいがそのまま写真に凝縮されている。この写真、素敵ですよね。

三木:マヨネーズの津波(笑)、ありがとうございます。つまり見たままが写っているということですね(笑)。それで良いのだと思います。
 食べた人の感動がそのままに体現されているなら本望です。マヨネーズと言えば、撮影後には楽しい試食の時間が待っているわけですが、そういう時に、私は志麻さんが「食べている姿」に密かに感動していました。ちょっと危ない人ですよね(笑)。

編集:どういうことですか?

三木:ある時、食事の席で、志麻さんがゆでたアスパラガスを手に取って、マヨネーズをつけるのかな? と思いきや、おもむろにバターを取って、そこに少しだけ塩を振って食べていたんです。
「なんてセンスの良い」と思いましたね。
 温かいアスパラガスのほっこりした味わいに、バターと塩気がなじんでいく様が、見ているだけで想像できるんです。
 料理撮影の時、料理家さんは朝から晩まで料理のし通しで、舌も身体もお疲れになっているわけですから、もう食べ物が喉を通らないというのはあると思うんです。
 それでも志麻さんは、食べることをおざなりにせずに、しっかり見定めて食べている。おやつに「ひまわりの種」を無心に食べている姿も、ダラダラ食べていないので、見ているだけでどんなにシンプルなものでも「美味しそう」と感じるんです。

編集:そこは初耳情報ですね。さすが名カメラマンの着眼点は違う!
 では、三木さん感動三品の第2位:「豚肉のソテーシャルキュティエールソース」について感想を教えてください。

三木:これを食べた時、「懐かしい家庭料理の味だなあ」と思ったんです。

編集:懐かしい家庭の味?

三木:はい、懐かしい味でしたね。私の父は大正生まれで、戦後米軍基地のクラブマネージャーなどを経て欧米の文化になじんでいました。食事も洋食を好んでいましたし、兄の家族がイタリア系だったこともあって、子どもの頃、父と囲んだ食卓は洋食の記憶が多いです。子ども心に、ああ外国の味なんだなあと思ったおぼろげな記憶が、このお料理を食べた時に鮮やかに蘇りました。

「あのキッシュは飲みものです!」百戦錬磨の料理カメラマンが見た伝説の家政婦・志麻さんの実像と「感動三品」を全告白。

編集:そうだったんですか! 思えば志麻さんも本書でこう書いていますね。
「フランス料理に出会って、食べるものすべてが初めてでしみじみおいしいなあと思っていました。そんな料理の一つ。酸味のあるソースと、豚肉の相性がとてもおいしいです」と。