「経済的強者」という言葉がある。弱者ではない。「経済的に恵まれている者」とでもいえようか。こういう表現で厄介なのは、ハタから見れば経済的に恵まれているにもかかわらず、弱者を装う強者がいることだ。

 例えば、これから電力料金が大幅に引き上げられる。社会保険料は、いまから13年後の2025年には年収の3割を超えると予想され、「見えない増税」として重くのしかかる(日本経済新聞、12年4月17日、5月19日)。これらに関してテレビ番組では、憂い顔を並べたキャスターやコメンテーターが「私たちの生活は苦しくなるばかりです」とコメントを述べる。

 そうなのか? と思わず首を傾げる。テレビ番組に出演するキャスターなどの所得は、かなり高額のはず。経済的強者に、弱者の目線で語られてもなぁ、とツッコミを入れたくなるのである。

 強者・弱者の定義には、様々な見解があるだろう。物欲の多くには「限界効用逓減」が働くが(『マンキュー経済学Ⅰミクロ編』624頁)、金銭欲には働かない。カネは、あればあるほど嬉しいのだから、強者と弱者の線引きは難しい。

フロー(所得)の多い強者と
ストック(資産)の多い強者

 そうした線引き基準の議論は他に委ねるとして、ここでは「会計」に絡めた話をしていこう。冒頭に経済的強者という表現を持ち出したのは、強者には少なくとも2つの面がある、と考えたからだ。1つは、フロー(所得)の多い強者。もう1つは、ストック(資産)の多い強者である。

 例えば年金を受給している高齢者は、強者か弱者か。フローである受給額が少なければ、弱者に分類されるだろう。ところが、ストックに注目すると、一転して経済的強者になる人が多い。

 同様のものは、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に反対する農業分野にも見られる。TPPに参加すれば確かに、日本の農家の収入は減少するのかもしれない。しかし、彼らのストックは、サラリーマン家庭など足許にも及ばないほどの金額であることに留意したい。

 もちろん、フローもストックも少ない高齢者や農家は存在する。しかし、全体としては、ストックを多く抱える強者の割合が高い。流通業界が近年、「高齢者対応ビジネス」に力を入れるのも、そうした事情がある。