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大手百貨店のJ.フロント リテイリングが2月24日、パルコの株式33.24%を、森トラストから取得すると発表した。パルコをめぐる争奪戦は、これで終止符が打たれる。
パルコは2010年8月、日本政策投資銀行に150億円の新株予約権付き社債を発行。社債が株式に転換されると、政策投資銀行の株式の比率は19%になり、33.24%を所有する大株主の森トラストの影響力は低下してしまう。発行を事前に知らせなかったパルコに対して、森トラスト側は激怒。パルコの経営陣の退任を要求し始める。
このトラブルに乗じて、イオンが、11年2月に突如、ファンドなどを通じ12.31%のパルコ株式を取得したと発表。その後、森トラストとタッグを組んで、平野秀一・パルコ社長を退任に追い込んだ。以来、イオンとパルコは協議をしてきたが、パルコ側の反発は強かった。
そして、12年2月末、イオンは森トラストに「パルコ株式の取得を断念する」と申し入れる。理由の一つとしては、協業に関してパルコ側の賛同が得られなかったからと伝えてきたという。
実は、森トラストの所有するパルコ株式はイオンに優先的に売却するという約束があった。イオン側から断ってきたことで、森トラストは自由に株式を売却できることとなったのだ。結果、J.フロントへの譲渡が決まった。
百貨店業界には、J.フロントとパルコの相性がいいとみる関係者は多い。J.フロントは仕入れと販売のみならず、場所貸しにも積極的に乗り出している。
一方のパルコは商業デベロッパーといわれつつも、ただ営業成績だけでテナントを管理するのではなく、全体のブランドイメージや売り場の雰囲気づくりをテナントとともにプロデュースする能力に長けている。
つまり、J.フロントは百貨店の中では商業デベロッパーに近く、パルコは商業デベロッパーの中では百貨店に近いノウハウを持つため、お互いの親和性は高いのだ。それでいて、立地や顧客層、ブランドイメージなどは重ならないから、事業の重複は少ない。
イオンとの協業にはあれだけ反発したパルコだが、J.フロントに対しては「業務上の共通点が多い」と歓迎している。
J.フロントは脱百貨店を掲げる中で、他の小売り業の買収を進めようとしていた。大衆化を図り、若年層も獲得したいと考えていただけにパルコはうってつけだ。また、森トラストは「イオンが売却を断念してきた際に、さらにパルコ株を買い進めるという選択肢もあった。しかし、これからの時代、流通事業を傘下に置くことは難しいかもしれないという気持ちもあった」というから、J.フロントが約300億円で買い取ってくれたことは渡りに船だったといえる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)