ミカさんは老衰のため、だんだん食が細くなっていき、寝ている時間が増えていきました。
 終末期は、生命の消耗を極力減らすために、そうして身体が省エネモードになっていくのです。
 
 お孫さんにそう説明したら、ミカさんの血を受け継いでいるのでしょうか、笑顔でこう言いました。
「ばあちゃん、エコだね」
 お別れが近い深刻な状況だったのに、ついつられて、みんなで笑ってしまった思い出があります。

 そしてミカさんは、自宅で最期を迎えました。
 朝、ご家族が起こしに行くと、布団の中ですでに冷たくなっていたそうです。
 静かに、とても穏やかな寝顔のまま、息を引き取っていたのです。
 
 その知らせを受けた私は、とても悲しかったのはもちろんですが、悲しみにも増して、ミカさんと出会えて本当によかったという感謝の気持ちが強くあるのに気づきました。

 ミカさん、本当にありがとう!

 人間は、電気のブレーカーが落ちるように、いっぺんに動かなくなって死ぬわけではありません。
 少しずつ、あるいは急激に、あちこちのスイッチが切れていくようなイメージです。
 そして、人間の死には4つの分類があるといいます。

「肉体的な死」
「精神的な死」
「文化的な死」
「社会的な死」

 この4つです。

 ミカさんは認知症もあったので、同じ言葉を繰り返したり、新しい文化に触れることもなくなっていたりするなど、「文化的な死」はだいぶ前から進んでいたかもしれません。
 ですが、最後まで自分の意思でトイレに行ったり、行動したりしていましたし、笑ったり悲しんだり感情豊かにすごしたりもしていて、笑顔で「ありがとう」と言っていました。ですから、「精神的な生」は最後まで持ち続けていたということです。
 そして、「肉体的な死」を迎えてもなお人々の心に残っているミカさんは、「社会的な死」はまだまだ迎えていないのです。

 ミカさんは、家族からも、病院のスタッフからも、とても愛されていました。
 愛嬌たっぷり、笑顔たっぷりのミカさんを今でも忘れることができません。
 
 笑顔は免疫力を高めると言われています。だからというわけではないでしょうが、私が知っている100歳を超えて長生きをした方たちはみな、笑顔で、口ぐせのように「ありがとう」と言う方たちでした。

「ありがとう」を聞きたくて、みながその人の周りに集まります。
「ありがとう」を返したくて、みながその人の周りに集まります。

 お互いがお互いを必要としているのです。
 それが励みになって、また後押しとなって、人は長生きができるのでしょう。