世界景気の動向を映す鏡といわれてきた銅の市況に、異変が起きている。そもそも銅は主に電線に用いられ、自動車や産業機械など電気で駆動する製品のほとんどに使用されている重要な工業金属である。そのため、景気の動向を示す指標として「ドクター・カッパー」と呼ばれている。
原油と並び、「景気循環銘柄」として位置付けられるが、原油はOPECという世界最大の生産カルテルが存在するため、現在の景気動向を正確に反映し難い一方、銅はそういったカルテルが存在しないため、比較的純粋に世界経済の動向を表しやすいとされてきた。
しかし、2000年以降の中国の急成長によって、中国の消費シェアが著しく上昇し、18年の実績では世界消費の50.6%に相当する1226万トンが中国で消費されるようになった。同時に中国は精錬銅の一大生産国でもあり、世界シェアの39.0%を占める940万トンを生産、不足分をチリやペルー、カナダから調達している。
生産、消費動向の大半を中国が握っているため、世界経済の先行指標というよりも、中国の景気動向を占う上での指標という色彩が強くなっている。実際、中国製造業PMIとLME銅価格の間には高い相関関係が確認されており、特に中国の人口動態がピークを打った10年以降の下落基調が顕著であることがわかる。
需給を勘案すると銅価格は上昇
では、世界全体で見たときの銅需給はどうか。19年の世界の精錬銅需給見通しは、国際銅研究会(International Copper Study Group)の直近の推計では、需要が2478万トン、供給が2497万トン、需給バランスは18万9000トンの供給不足を予想しており、前回10月の見通しである6万5000トンの供給不足から、さらに不足幅が拡大する見込みだ。
中国政府の電気自動車の導入加速に加え、景気刺激のための公共投資(近代化を目的とする家電化を進めるための配電網整備需要)が行われることが需要を押し上げる一方、インドネシアのグラスブルグ鉱山の生産方式が露天掘りから地下掘削に移行することや、インドの環境問題でツチコリン精錬所が稼働を停止していることなどが、需給の見通しがタイト化している背景にある。つまり、足元の需給ファンダメンタルズを勘案すると、銅価格は上昇に転じてもおかしくない。