伊藤忠製糖のヒット商品「沖縄・奄美のきびオリゴ」を生んだ平林(左)と竹内。伊藤忠製糖のヒット商品「沖縄・奄美のきびオリゴ」を生んだ平林(左)と竹内。 Photo by Katsuki Hirabayashi

 砂糖はいつから、日本人に悪者扱いされるようになったのだろう。貴重なエネルギー源である砂糖の消費量は世界的には増加傾向だが、国内では昨今の糖質制限ブームで「砂糖=健康の敵」というイメージがすっかり定着し、人々の食事から排除される対象となってしまった。

 だが国内消費量の減少は今に始まったことではない。1970年代の消費量は年間300万トンを超えたが、近年は200万トンを下回る。背景には、安価な異性化糖など代替品の増加や少子高齢化といった構造的な事情がある。

「消費量が減り続けるのは目に見えている。このままでは業界全体がじり貧だ」。伊藤忠製糖の平林克樹は、2000年代からそんな危機感を抱いていた。

 平林は名古屋大学農学部を卒業後、93年に地元の伊藤忠製糖に入社。技術開発畑を歩み、主に製糖工程の改善業務に携わった。

 製糖会社の仕事は、いかに白く純度の高い砂糖を作るかがほぼ全てといっていい。

 サトウキビから搾り出した汁を石灰と一緒に煮る。さらにろ過や殺菌などを繰り返して不純物を取り除き、白い結晶を取り出す。その純度は99.9%以上。販売先は食品や飲料メーカーが中心で「BtoB」ビジネスが基本だ。

 平林は品質保証室にいた02年、あるプロジェクトに携わる。オリゴ糖メーカーへの液糖の供給だ。

 メーカーから求められたのは、通常より砂糖の固形分濃度が高い特殊な液糖の開発。前例のない試みに悪戦苦闘したが、何とか販売にこぎ着けると同時に営業へ異動となる。オリゴ糖に可能性を感じた平林は、プロジェクトで培ったノウハウや人脈を生かし、独自の市販向けオリゴ糖商品の企画を温めていた。

 社内やオリゴ糖の供給元を説得し、特定保健用食品の「おいしいオリゴ」を発売したが、売れ行きは芳しくなかった。だが、平林は取引先との関係を深める中で、ある強い信念を持つようになる。

 砂糖の常識を変えたい──。「BtoC」の新たな市場をつくり出さなければ業界で生き残ることはできない、という思いだ。