「低炭水化物ダイエットは正解か?」
「脳が砂糖をやたら欲しがるのはなぜか?」
「食べた分だけ動けば確実にやせるのか?」
「カロリーを減らせば体重は減るのか?」
これらの「食事の疑問」に答えつつ、「人が太るメカニズム」を医学的に徹底解明したNYタイムズベストセラー『果糖中毒』が9/13に発売された。
アメリカの一流メディカルスクール教授が229の医学論文から「食事の正解」を導き出し、「健康な脳と体」に戻るための処方せんをあざやかに提示したとして、原書はアメリカで12万部を超え、アマゾンレビュー987件、平均4.6と高評価をたたき出した。
最新のWHO統計によると、現在世界で約19億人が「体重過多」、約6億5000万人が「肥満」だという。これは世界中の人々が運動を怠けて、食べ過ぎた結果なのか? 『果糖中毒』では、「肥満は自己責任論」を全面否定し、現在の「肥満の世界的大流行」は糖分、特に「果糖」が主な原因だと結論づけている。
ここで『果糖中毒』の一部を特別に無料で公開する。
健康に悪い「糖分」は
食品業界にとっては「夢の食材」
食品業界は、食品に糖分〔ここでは果糖分子を含むショ糖や異性化糖を指す〕を加えたり、食品から食物繊維を取り除いたりしていることについて、さまざまな理由をあげるだろう。もちろん、そのうちのいくらかは、工業的な面と経済的な面から見れば、納得できるものだ。
〔異性化糖とは、主にトウモロコシから作られる高フルクトース・コーンシロップのことで、含まれる果糖が50%未満のものは「ブドウ糖果糖液糖」、50%以上90%未満のものは「果糖ブドウ糖液糖」、90%以上のものは「高果糖液糖」と呼ばれる〕
だが、生物学的な面ではどうか? 私たちの健康面ではどうなのか?
事情1 おいしくない食品がおいしくなる
人間の舌は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味という5つの味覚を感知することができる。しかし糖分は、残り4つの味覚の欠点を補うことができるのだ。
たとえば、塩味(『ナッツ&フルーツ、トレイル・ミックス』やハニーローストピーナッツなどの塩味を薄める)、酸味(熟していないトマトで作られたトマトソースの酸っぱさやレモネードの酸味をカバーする)、苦味(ミルクチョコレートの苦味を隠す)、そしてうま味(酢豚をもっとおいしくする)、といった具合だ。
糖分はアンバランスな味を隠して、あまりおいしくない食品でも、食べたくさせてしまう。端的に言うと、糖分をふんだんに使えば、たいていのものは美味しくなる。そして食品業界は、まさにそれを実践しているのだ。
事情2 そそられる焼き色がつく
食べ物の焼き色は、目も、味を感知する舌の味蕾(みらい)もそそる。バーベキューでリブを焼くときには、ソースをふんだんに塗る。そうすると、ちょうどよい焼き色になるからだ。
どんな食べ物も糖分を加えればよく褐色化する。そして、褐色化は肉に、スモーキーで舌にピリッとくる風味を与える。食べ物の褐色化はメイラード反応だ[1]。料理と味には好都合だが、あなたの動脈にとっては、そそられる反応ではない。
事情3 ケーキが膨らみ、アイスがなめらかになる
もし砂糖を使わなかったら、焼き菓子はつまらないものになってしまう。「カロリー無し甘味料」の『スプレンダ』でケーキを作ってみたらいい。甘さは変わらないが、生地が膨らまないので、ペチャンコになる。パンも、ふっくら膨らませるには、エサになる砂糖をイーストに与えることが必要だ。また、砂糖がなかったら、ごく薄いウェイファー・クラッカーもパリパリにはならない。
糖分は、グミの「ガミーベア」の例のように、食品に粘性(高密度)を与えるし、飴のように「ガラス」みたいな見かけと、バリバリ噛める触感も生み出す。さらには、食品が凍結する凝固点を下げ(これは、アイスクリームになめらかな均一性をもたせるのに必要)、沸点を上げる(キャラメルの粘り気を出すのに必要)。
事情4 保存料として使える
糖分は水分活性つまり微生物が利用できる自由水の割合を減らす。水分活性が高ければ高いほど、微生物が増えやすくなり、カビが生えやすくなる。カビが生えやすいということは、食品が腐りやすくなるということだ。
しかし、糖分(と塩分)は水分活性を減らすので、糖分が含まれた食品は腐りにくくなる。だから食品業界は糖分を保存料として使う。腐った臭いの清涼飲料水を飲んだことがあるだろうか? 気が抜けた炭酸飲料は飲んだことがあっても、腐った臭いがするものを飲んだことはないだろう。炭酸飲料水のビンのなかでは、何も育たないからだ。
食品に糖分を添加すると、保湿性、つまり水分を保持する能力も向上する。この特性は、とりわけ焼き菓子のようなご馳走が固くなってしまうのを防ぐのにとても重要だ。
保湿性における糖分の効果を測る1つの方法は、パンが固くなるのを調べることだ。地元のパン屋さんで買う食パンが固くなるのに、どれだけかかるだろうか? 2日ぐらいだろう。スーパーで買った食パンが固くなるのは? 2~3週間後だ。
これは消費者にとってもプラスだ。長持ちするから捨てる量も減る。食品業界もスーパー業界もハッピーだ。減価償却率が抑えられるので収益が上がる。
私は地元のスーパーで食パンを調べてみた。そこで売られていた32種類の食パンのうち、31種類に異性化糖が使われていた。添加の理由は、褐色化させるためと保湿性である。それらに欠けていたのは? 食物繊維だ。
現在のところ、アメリカ人の食物繊維消費量の中間値は、1日あたり12グラムだ。これは意図的な数値である。食品業界が食べ物から繊維を取り除くのは、繊維があると保存期間が短くなるからだ。
食物繊維が取り除かれたパンは、ファーマーズマーケットで買った焼きたてのパンよりずっと長持ちする。そして食品業界はこれを存分に利用する。減価償却率が低下するということは、コストが抑えられるということで、それは売上の増加を意味するからだ。
ファストフードの定義は何かご存じだろうか。それは、「食物繊維抜きの食品」である。なぜなら、食物繊維が含まれた食品を冷凍すると質感が変化してしまうからだ。
繊維のない食品なら、冷凍してから世界中に輸送して、すぐに調理することができる。だが、食物繊維を取り除くことは満腹感を取り除くことになり、炭水化物の負のインパクトを悪化させて、高インスリン血症、肥満、そしてメタボ症候群を引き起こすことになる。
(本原稿は書籍『果糖中毒』からの抜粋です。訳者による要約はこちらからご覧になれます)
ロバート・H・ラスティグ(Robert H. Lustig)
1957年ニューヨーク生まれ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児科教授。マサチューセッツ工科大学卒業後、コーネル大学医学部で医学士号を取得。2013年にはカリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールで法律学修士号(MSL)も取得。小児内分泌学会肥満対策委員会議長や内分泌学会肥満対策委員会委員などを歴任。「果糖はアルコールに匹敵する毒性がある」と指摘した講義のYouTube動画「Sugar: The Bitter Truth(砂糖の苦い真実)」は777万回以上視聴されるほど大きな話題になった。
中里京子(なかざと・きょうこ、訳者)
翻訳家。訳書に『依存症ビジネス』(ダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』(講談社)、『ファルマゲドン』(みすず書房)、『チャップリン自伝』(新潮社)ほか。