「嫌われるかも」と恐れない
ただし、言い方には配慮する
ですから、仕事でもプライベートでも「嫌われるかもしれないから、これは言わないでおこう」とは思いません。
ただし、言い方には気をつけます。サンリオピューロランド館長の立場であれば、「どうすればピューロランドが良くなるか」「相手も自分も成長できるか」を念頭に話すことで、どこかに「自分はもう変わらない」という意識のある相手でも聞いてくれますし、ほんの少しでも成長する瞬間は訪れます。
ただ、ここで押しつけたり過保護になったりするのは、相手のためにも良くないこと。失敗したり壁にぶつかったりする経験は、成長に不可欠です。
リーダーとして必要なお膳立てはしますが、「大丈夫、できるから」と信じて、手を離すようにします。
実験で生徒の成績を向上させた
「ピグマリオン効果」とは?
私は、51歳から東京大学大学院の教育学研究科で心理学を学んだのですが、教育心理学では、教師が「できる」と期待して接すると生徒の成績が向上する「ピグマリオン効果」が知られています。
簡単に言うと、「あの人はダメだ」「あの人にはできない」と思っていると、本当にその人はダメになってしまう。「転ぶ、転ぶ」と思っていると、本当に転ぶ確率が高まるというものです。
これは実験でも確認されていて、学級担任に無作為に選ばれた生徒の名簿を渡して「今後、数ヵ月の間にこの生徒は成績が伸びます」と伝えたところ、その生徒は実際に成績が伸びたというのです。学級担任の接し方と、期待に応えようとした子どもたちの連鎖から生まれた結果だと分析されています。逆説的には、「できないのでは」と疑いながら手を差し伸べることは効果的だと言えません。
ここから言えるのは、できると信じることが本人の成長につながるということです。この研究結果を知ってから、子どもも部下も「できないんじゃないか」と思って手を差し伸べてはいけないと思うようになりました。
信用して任せたり、待ったりすることは面倒で大変なことです。いっそ自分でやってしまったり、担当を交代させたりした方が楽だと思うこともあるでしょう。
でも、「みんな大丈夫、絶対に大丈夫。自分で解決する力がある」。
つらいことがあっても、理不尽なことをされているのを見ても、安易に手を貸すのではなく「立ち上がる力がある」と信じて見守る。失敗したり壁にぶち当たったりしていても、「いい経験をしている」と思って、待ってあげることも必要です。
もちろん、リーダーや管理職として必要なことはします。ある程度のお膳立てはしますし、仕掛けも作ります。でも、ある程度のところまできたら思い切って手を放します。「大丈夫、いい成長をしてね」と。
この間も、こんなことがありました。すれ違ったスタッフの表情が暗いので「大丈夫?」と声をかけたところ、「大丈夫です」と返ってきました。
「でも、ちょっと表情が暗くない?」
「いや……。ちょっと落ち込んでいて」
「落ち込んでるって、何? どうしたの?」
「実はちょっと、外部の取引先がへそを曲げてしまって。すいません愚痴って」
「いやいや、愚痴はどんどん吐いてよ。ためちゃダメだよ、体の中で腐るから」
そう言ってひとしきり毒を吐いてもらって、最後に「大変そうだけど、私は何かしたほうがいい? 何もしないほうがいい?」と聞いたら、「いいっす、いいっす」と。
「どのくらいの時間で整理できそう?」
「2ヵ月くらいあれば大丈夫です」
どうすればいいか。答えは本人の中にあるのです。
悩んだり、壁にぶつかったりすることで人は成長します。成長の機会を他人が奪ってはいけないのです。
信じているから大丈夫だと、自分に言い聞かせる。そして、そっと背中を押す。
こう考えられるようになったら気持ちが楽になったし、社員やアルバイトスタッフたちも見守ることが楽しくなりました。