ハローキティをはじめ、サンリオのキャラクターたちに触れ合える屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド(以下、ピューロランド)」。今、「“SNS映えしすぎる”テーマパーク」としても話題で、若い女性たちを中心に賑わっています。同時にピューロランドとピューロランドの館長である小巻亜矢氏が、テレビ等で取り上げられ大きな話題となっています。
話題となっている理由は、ピューロランドが笑顔と活気にあふれるようになったのは最近のことで、5年前まではスタッフに笑顔は少なく、経営的には赤字が続く危機的な状況でした。そこから平日1日の来場者を一気に4倍まで増やし、奇跡ともいえるV字回復を果たしたのです。同じ施設、同じスタッフで果たした奇跡の再生の秘密は、スタッフたちのモチベーションと行動を変えた「人づくり」にありました。
 そのきっかけを作ったのは、「エンタメ業界の素人」を自認していた小巻亜矢さん。(株)サンリオに新卒で入社したのち一度は専業主婦になり、その後は化粧品事業など現在の業務とはかけ離れた仕事をしていたのに、サンリオグループ企業へ復帰後にちょっとしたきっかけが転じて、想定外のピューロランド館長に。
その小巻さんはこの6月、ピューロランドを運営する(株)サンリオエンターテイメントの代表取締役社長に就任しました。今回は社長就任と、ここまでのすべてをまとめた『サンリオピューロランドの人づくり』(ダイヤモンド社)の出版を記念して、これまでの経緯や今後の豊富について語ってもらいました。

「オールナイト」の一言で、
大人向けだと伝わる

 業績が低迷していた当時のサンリオピューロランド(以下、ピューロランド)は、幼いお子様連れのご家族がほとんど。もちろん、どのお客様も大切な存在ですが、来場者数を増やして売り上げを伸ばすには、メインターゲットの「原点回帰」が必要でした。それは、20歳前後の学生から30代半ばの働く女性たちです。SNSでの発信に積極的で、消費のけん引役でもある層に、リピーターとして来場してもらうことが重要でした。

 一見すると子ども向けに見えるキャラクターたちですから、「原点回帰」という表現は不思議に感じるかもしれません。しかし、株式会社サンリオの辻信太郎社長は以前から「ショーやパレードを子ども向けにしてはいけない」と言い続けていました。子ども向けにすると大人は退屈で来なくなってしまいます。逆に、大人向けに作れば、子どもも必ずついて来ると読んでいたのです。

 では、大人の女性たちに「私たちのピューロランド」として認知して足を運んでもらうためには、どうすればいいのでしょうか。

 恋愛では、印象と実際のギャップが大きいほど興味を引きつけると言われているそうですが、ピューロランドも、ギャップを覆すイメージが大きいほど振り向いてもらえるはずだと考えました。

 例えば、「大人でも楽しめます」といった説明をするのではなく、「オールナイト」と名付けたイベントを開催すれば、子ども向けではないことが一目瞭然です。

 実際、このギャップ作戦は狙いどおりでした。ハロウィンのイベントによる仕掛けなど、詳しくは拙著『サンリオピューロランドの人づくり』に記しましたが、ホラー系やミッションクリア型の絶叫系イベントなどさらなる仕掛けによって、一緒に来場する男性への認知向上にも成功しました。

 とくに20歳前後のカップルは、一度キャラクター離れしてしまう年代。その層に再びサンリオの世界観に触れてもらう機会となりました。

 意外性といえば、スタッフも含めて全員が男性限定のイベント「男まつり」も開催しました。参加費は1万3000円で、当時の大人の年間パスポートよりも高額でしたがチケットは完売。メディアでも取り上げられました。すそ野を広げるために、言葉で「男性も、ぜひ」と何十回も呼びかけるよりも強烈なメッセージを届けられました。

 こうしたイベントによってピューロランドの顧客基盤が厚くなっていきました。