「意味がある」の領域で成功した日本企業もある
山口:最後に「意味がある」で成功している日本の会社の例を紹介します。マルニ木工という会社があります。広島の木工会社で、いわゆるマーケティングにのっとって商品開発をやっていたのですが、さっぱりうまくいかなくて、潰れかけていた会社です。
最後の最後は、どうせ潰れるのであれば、「本当に自分が作りたいと思うものを思い切り作ってやろう」と社長の山中さんがデザイナーの深澤直人さんに声をかけて作ったのが「HIROSHIMA」でした。
1脚17万円もする椅子なのですが、これをアップルのチーフ・デザイン・オフィサーであるジョナサン・アイブが深澤さんのインスタグラムをフォローしていたことで目に留まり、正式に採用されて息を吹き返したという事例があります。
バルミューダも、売上が10年間で1000%アップした会社です。日本の家電メーカーがあれだけ海外進出に苦戦しているにもかかわらず、売上の半分が海外で売れているわけです。
バルミューダのトースターは、2万5000円です。普通の量販店の10倍の価格付けですが、「役に立つ」から「意味がある」にシフトすることで、0が1個増えて海外でも売れるようになる。
「役に立つ」ものでグローバルでトップになれるのであれば、それで突っ走るのも悪くありませんが、それで生き残れないとなると、この国の産業というのを大きく切り替えていかなければなりません。
それは、文化と戦うということで、文化的な価値をどう生み出していくのかというのは、リベラルアーツとかヒューマニティとかアートとかというのが、組織とか個人の能力に大きくかかわってくる世の中になったなということです。
「未来がどうなるか?」ではなく、「未来をどうしたいか?」。その想いこそが、新しい時代を切りひらく武器になり、きっかけになると信じています。
(シリーズ全3回でお送りした山口周さんの講演は、今回が最終回です)
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1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。