神戸からの電話で、その時の残念な気持ちを思い出した秋元氏は、「保存できるやわらかいパン」に挑戦してみることにした。そして、仕事の合間をぬって研究を始める。

 ほどなく「パンを缶詰にする」というアイデアが浮かぶ。

 画期的なアイデアだったが、いざ実現しようとすると、一筋縄ではいかなかった。

 秋元氏はまず、シンプルに焼き立てのパンを缶に入れてフタをしてみた。すると、1週間後に缶の中のパンはカビだらけに。

 ではカビが生えないように、とパンを入れた缶を加熱殺菌してみる。結果、パンがパサパサに乾燥して、まずくてとても食べられたものではなくなった。

 それならば、と缶の中にパン生地を入れてそのまま焼いてみると、今度はパンが缶にくっついて取り出せなくなってしまった。

 これについては、すぐに解決した。缶とパン生地の間に紙を挟めばよかったのだ。

 ところが新たな問題が発生する。パンを焼く際に加熱した缶が冷めると、結露して缶の内部に水がたまるのだ。

 試行錯誤を繰り返した末、水を吸収し、しかも破れない外国製の紙を使うことで、結露の問題を解決。ついに、パンの缶詰が完成する。

 震災から、すでに1年半が過ぎていた。

 秋元氏の努力の結晶であるパンの缶詰は、防腐剤などの添加物を一切使用していない。それでも、3年間の賞味期間は、柔らかくておいしいパンが食べられる。

 缶詰は、主に備蓄用の非常食として、家庭のほか学校、自治体などに売れていった。

備蓄しておいた「パンの缶詰」を回収し
世界の飢餓地域に送る「救缶鳥プロジェクト」

 アキモトのパンの缶詰は、商品自体、偉大なイノベーションといえる。しかし、秋元氏の挑戦はそれで終わりではなかった。

 缶詰を効率よく、必要とされる被災地などに届けるための「保存食リユースシステム」も考案したのだ。

 きっかけは、顧客である自治体から「3年前に備蓄として購入して賞味期限が近づいたパンの缶詰を引き取ってほしい」という連絡を受けたことだった。

 引き取ったパンは処分するしかないが、処分にもコストがかかる。秋元氏としては、せっかく丹精込めて作ったパンを廃棄するのは忍びない、もったいないという気持ちも強かった。

 もともと秋元氏は、パンの缶詰が完成したころから、日本の被災地支援や備蓄用以外にも活用方法があるのではないかと考えていた。「海外の飢えに苦しむ人たちにも提供できないか」というのだ。