「強み」とポジティブ心理学

 ポジティブ心理学(Positive Psychology)とは、世界的な心理学者であるマーティン・セリグマンやミハイ・チクセントミハイらが提唱している考え方です。

 具体的には、従来の心理学が、ストレス、うつ、異常行動など人間の不適応行動を是正することに注力してきたことを批判し、個人のウェルビーイング、希望、幸福感、強みや長所に焦点を当て、そうした感情や特性が生じるメカニズムを解明しようとするアプローチです。

 特に、セリグマンは、クリストファー・ピーターソンと共著で『強みと美徳(Character Strengths and Virtues)』という本を出版し、個人の持つ「強み」を見極めて、伸ばすことが幸福な人生につながることを提唱しています。

 ポジティブ心理学と呼応する形で、「強み中心のアプローチ(strengths-based approach)」が提唱されており、人材育成、業績評価、コーチング、メンタリング、カウンセリング、精神医療、ソーシャルワークの分野で、その有効性が確認されています。

 例えば、2000人以上のマネジャーを対象としたギャラップ社の調査によれば、部下の強みを伸ばす指導をしているマネジャーは、そうでないマネジャーよりも、約2倍の成功を収めていたそうです。

 一方、個人の「問題点」「欠陥」「機能不全」を改善しようとする「弱み中心のアプローチ(weakness-based approach)」は、部下の防衛的反応を引き起こしたり、改善意欲を低下させやすいことが報告されています。

弱みに目を向けるだけでは、部下は成長できない

 図表0-2に示すように、「強み中心のアプローチ」は、部下あるいは対象者のウェルビーイングやエンゲージメント(仕事への活力や熱意)を高め、その結果として、生産性や業績を向上させることができるのです。