「成績優秀な大学生が自宅やオフィスをお掃除します」。フロリダ大学の学生が創業した清掃サービス会社、スチューデント・メイド。創業から10年、“非常識なまでに徹底した、社員を大切にする経営”により、全米で大評判となった同社の採用面接には、今やミレニアル世代を中心にさまざまな世代が押し寄せるという――。この連載では、同社の創業者、クリステン・ハディードの著書『離職率75%、低賃金の仕事なのに才能ある若者が殺到する奇跡の会社』(クリステン・ハディード著/本荘修二監訳/矢羽野薫訳)の記事からその驚くべきストーリーやノウハウを紹介し、同書にインスパイアされた各界で活躍されている方のインタビューを掲載していきます。今回は、2回にわたって品川女子学院理事長の漆紫穂子先生が、『奇跡の会社』の読書体験をシェアしてくれます。その後編です。(構成/西川敦子、撮影/タキモトキヨシ)

部活を通じて「自分は何者か?」を発信する

漆紫穂子(うるし・しほこ)
1925年創立の中高一貫校・品川女子学院の6代目校長を経て、2018年より現職。教育再生実行会議委員(内閣官房)国立教育政策研究所評議員(文科省)「28プロジェクト~28歳になったときに社会で活躍する女性の育成」を教育の柱に、社会と子どもを繋ぐ学校作りを実践。趣味はトライアスロン。近著『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』『女の子が幸せになる子育て』(ともにかんき出版)など多数。

本荘 品川女子学院は、企業と商品開発を行うなどの総合学習や、生徒が自ら企画運営する行事などを通し、女性リーダーを育成していますよね。ところで、リーダーシップを発揮する子って、みんな同じようなキャラクターなんですか?積極的で、はきはきものを喋って、クラスでも人気者で――というタイプがやっぱり多い?

 そんなことはありませんよ。新入生に自分の性格についてアンケートで「積極的、おとなしい、どちらでもない」と質問すると、毎年「どちらでもない」が一番多いです。みんなの先頭に立つことだけがリーダーシップではなく、さりげなく仲間をフォローしたり、後始末をしたりしてチームに貢献することもまたリーダーシップですから。一人ひとりが自分の役割を客観的に認識し、発揮することが大切だと思っています。

本荘 必ずしもカリスマ型だけがリーダーではないわけですよね。そういえば、この本の著者のクリステン・ハディードさんは、ちょっと頼りないところもある人情家。一方、片腕のアビーはクリステンとは真逆で、何事も理詰めでコツコツやるタイプ。違うキャラクターが組み合わされることで、チームはうまくいくのかもしれません。

 そうそう。だから私は、リーダーシップを学ぶうえで大切なのは、「自分の個性や役割を知って生かすこと」だと考えています。服にたとえると、成長につれ、親が選び、友達が選び、自分が選ぶようになると言われます。子どもの頃は親が服を選ぶけれど、そのうち周りの目が気になるようになり友達と同じような服を選び、やがて自分の好みで選択するようになるという意味です。ある生徒がこんなことを言っていました。「小学校の時は、みんなが赤が好きというと赤が好きと言っていたが、それではチームでよいものが作れないので、時には青が好きという勇気が必要だと気づいた」と。

自分は何者でどういう意見を持っているか、アイデンティティーを確立し、表現できるようになってほしい、同時に他者の気持ちによりそう共感力を身につけてほしいというのが本校の願いです。そのためのトレーニングの場が学年を超えて交わる学校行事であり、部活動なんですね。

実際、社会人1年目の卒業生にアンケートをとって、中学・高校時代、「私はこれで伸びた」と思うものを複数回答可であげてもらったところ、学習関係と部活動がそれぞれ50%弱、行事が75%くらいになっていました。さらに、自尊感情の統計結果が、大学生対象の先行研究より、1割くらい高く出ました。卒業生を見ていると、こうした教科外教育で誠実さや忍耐心、リーダーシップ、コミュニケーション能力といった社会で活きる「非認知能力」が身についていることを実感します。

本荘 非認知能力というと、IQや学力テストと違い、数値で測れない能力ですよね。

 ええ。海外では経済学の領域で長年研究されていて、ノーベル経済学賞をとったシカゴ大学のヘックマン教授が有名です。非認知能力の高さによって、成人後の収入、持ち家率、犯罪率などが違うという研究もあります

日本では、研究領域によって、非認知能力と言われたり、社会情緒的スキルと言われたりと呼び方も様々で、ようやく研究が緒に就いたばかりです。それでも、最近は、国立の研究機関のレポートで報告されるなど注目されるようになってきました。今後は、大学の入学選抜でも一点刻みの点数だけでなく、思考力や判断力、表現力などが重視される方向です。デビッド・デミングという研究者の2017年の論文では、「非認知能力を必要とする仕事の需要が1980年から2012年にかけて24%上昇する」というデータもあり、AIなどテクノロジーの進化によって、人間にしかできない仕事が注目されるにつけ、非認知能力への関心は高まるでしょう。

私はもともと、学校行事や部活動が非認知能力を育てるのではないか、という仮説をもっていたのですが、本校で、部活動の教育効果を調査したところ、部活動に熱心な生徒ほど、他者感情の認知などの感情知性(EI)、自律的学習動機、愛他的行動、校内成績の得点が高いという統計結果が出たのです。こうした力は、将来、社会での活躍につながっていくと考えられますので、このエビデンスを教育プログラムに活かしていきたいと思っています。

本荘 本書に登場する清掃会社、スチューデント・メイドが名門校のフロリダ大学で人気なのも、仕事を通して非認知能力を獲得できるからでしょう。採用面接もあるし、成績も足切りされる狭き門なのに、「どうしてもここでアルバイトしたい」と大勢の学生が押しかけるらしい。実際、卒業生たちはびっくりするようないい会社に就職しているみたいですよ。

 アメリカのTeach For Americaに似ていますね。教育困難地域の学校にメンバーを赴任させるNPOですが、一流大学出身の学生が殺到していると聞きます。Teach For America出身者であることが、その後のキャリアにもプラスになるとか。掃除でも教育でも、ひとつの仕事に取り組むうち、目標達成に必要な要素を分析したり、周囲をまきこんだりする力がつくんじゃないか、と思いますね。