仕事で良い上司に恵まれるかどうか。どんなにがんばってみても、こればっかりは運でしかないのが勤め人の悲しさである。しかし一方で、その上司も部下との距離に苦心しているもの。上司になるやいなや、その人心掌握術が試されるのである。それでは、部下に慕われる上司の秘訣(ひけつ)とは、実際のところどんなものなのだろうか。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)
いろいろ大変な“上司”というポジション
人心掌握の能力が試される
上司とてどうあがいても不完全が宿命である人間だが、基本的に上司の指示や意向に従うしかない部下たるポジションには理不尽がつきまとう。上司が芳しくない人間性であれば部下の不幸は加速する。
さりとて、上司も哀愁ある存在である。部下とは世代間ギャップで価値観から違うのに、もろもろ煩悶しながら部下を率いていかねばならず、時には憎まれ役を担わなければならないこともある。また、近年は徐々に新卒や新人に優しい世の中になってきているので、モンスター新卒が配属されて対話が端(はな)から不可能そうに思えても対話の努力を怠ってはならない。部下を効率よく率いるには好かれるのが手っ取り早く、そこで上司は人心掌握スキルが試されるのである。
巷間でよく「理想の上司は?」といったよもやま話が聞かれる。主に部下である人たちの願望が寄せ集められて理想の上司像が導き出されるが、世間の上司がそれを参考にしようと思ってもなかなかはかばかしくはない。そもそも上司とて十人十色であり、人としての魅力もそれぞれであるからしてまったく別の人間に明日から成り代わろうというのは無理なのである。強面(こわもて)キャラの上司が急に優しくなったところで不自然であるし、無理は長く続かない。
むろん、自己改革の足がかりとして理想の上司像を参考にすることを否定するつもりはないが、人心掌握へのアプローチは理想の上司像をまねる道だけに限らないようなのである。
世間の理想の上司像はおおむね一定のステレオタイプに収まるが、人心掌握のあり方はひと通りではない、ということでもある。本稿が部下の人心掌握に悩む上司諸氏の一助となることを祈りつつ、一風変わった人心掌握術を紹介していきたい。