個人性を起点とする西田哲学

 強みとは、その人ならではの個性です。哲学者の西田幾多郎は、「他人に模倣のできない自分の特色」すなわち、強みを「個人性」と呼んでいます。

 どんな人間でも、その人しかできない何かを持っており、偉大な人はこの個人性を発揮した人である、と西田は言います。

 彼の著書『善の研究』(岩波文庫)から、関連箇所を引用してみましょう。

「自己の本分を忘れ徒(いたず)らに他のために奔走した人よりも、能(よ)く自分の本色を発揮した人が偉大であると思う」(中略)「社会の中に居る個人が各(おのおの)充分に活動してその天分を発揮してこそ、始めて社会が進歩するのである。個人を無視した社会は決して健全なる社会といわれぬ」

 つまり、個人性を発揮した人が大きな成果を上げ、個人性を大事にする組織や社会が発展するという考え方です。

 しかし、西田幾多郎によれば、個人性は善のスタートではあるけれども、そこには「愛」がなければならない、といいます。

「善は、小は個人性の発展より、進んで人類一般の統一的発達に到ってその頂点に達する」(中略)「我々が内に自己を鍛錬して自己の真体に達すると共に、外自ら人類一味の愛を生じて最上の善目的に合う様になる、これを完全なる真の善行というのである」

 つまり、その人本来の強みである「個人性」を生かして、社会や人類のために役立てたときに真の善となるという考え方です。

 同様に、本田技研工業株式会社の創始者である本田宗一郎氏も、次のように述べています。

「国家をはじめとして今日の機構の中で大事なのは、その中で一人一人の人間の特性が正しく評価され、活用されることだ。なぜならば、その人間の個性がもつ特性のほかに、機構にとって必要なものは何もないはずであるからだ。そして、そうした個性を生かすものこそ、経営学の根本であるはずだ」

 本田氏の主張は、西田哲学とドラッカー経営学を橋渡しする考え方です。

 なお、こうした「個人性」と関係するものに「本来感(authenticity)」があります。最近の研究では、「本来の自分」「本当の自分」であるという感覚を持つ人ほど、ウェルビーイング(身体的・精神的健康)、自尊心、職務満足度が高く、ストレスやうつ状態を感じにくくなり、結果として仕事に関する能力や業績が高くなることがわかっています。