「強み」を強調するドラッカー

 人材の持つ強みに着目しているのは、ポジティブ心理学だけではありません。「現代経営学の父」と呼ばれているピーター・ドラッカーも、彼の著書『マネジメント(Management)』の中で次のように述べています。

「マネジャーの第一の務めは、人材の強みを引き出すことである」

弱みに目を向けるだけでは、部下は成長できないピーター・ドラッカー

 ドラッカーは、マネジメントの哲学を「ひとりひとりの強みをできるかぎり引き出してその責任範囲を広げ、全員のビジョンと努力を同じ方向へ導き、協力体制を築き、個と全体の目標を調和させるものである」とし(邦訳159頁)、さらに「成果への意欲を培うためには、ひとりひとりに強みを存分に発揮させる必要がある。人材の弱みではなく、あくまでも強みに力点を置かなくてはいけない」(邦訳191頁)と述べています。

 そもそも、マネジメントは「他者を通して事を成し遂げること」と定義されていますから、主な他者である部下の強みを最大限に引き出して、与えられた仕事を成し遂げることが、最大の成果につながるという考え方は理にかなっています。

 ドラッカーが「強み」を強調する背景には、彼がユダヤ系の家庭で育ったことも関係しているかもしれません(ドラッカー自身はキリスト教徒だったようですが)。

 上田和夫著『ユダヤ人』(講談社現代新書)によれば、マルクス、フロイト、アインシュタイン、ロスチャイルドなど、さまざまな分野において優れた人材を輩出してきたユダヤ人家庭の教育方法には、ある傾向があるといいます。

 その方法とは、子どもたちに何らかの例外的な成功の可能性が見られた場合、それを決して見逃さず、子どもの才能を花開かせるためにあらゆることがなされるという教育法です。社会の中で迫害を受けてきたユダヤ人が、生き延びる方法の1つが「才能を発見し、応援する」ことだったと考えられます。