人の最良の部分を最大限に引き出す

 ビルのことを本に取り上げるのを断念した2012年に、私はグーグルの国際イベントに呼ばれ、「組織心理学者の目から見たグーグルの運営方法」というテーマで講演を行った。

 それまでの数年間に、グーグルの先駆的な人材分析チームと仕事をしていてはっきりわかったのだが、グーグルが行うすばらしいことのほぼすべては、チーム内で起こっている。そこから私は、組織のカギは個人ではなく、チームこそ基本の要素として捉えるべきだと話した。グーグルの仲間たちは私のさらに上手を行き、成功するチームに共通する特性を見つけるための大規模調査、その名も「プロジェクト・アリストテレス」を実施し、発表した。

 この研究で明らかになった「5つのカギ」は、ビル・キャンベルの作戦帳(プレイブック)からそのまま採ったと言っても通るほどだ。

 グーグルの最高のチームは心理的安全性が高く(マネジャーの後ろ盾のもとで、安心してリスクを取れると感じていた)、明確な目標を持ち、仕事に意義を感じ、お互いを信頼し、チームの使命が社会によい影響を与えると信じていた。

 本書を読めば、ビルがこうした条件を整える達人だったことがわかる。彼は自分がコーチするすべてのチームに「心理的安全性」「明瞭さ」「意味」「信頼関係」「影響力」を育むために、労を惜しまなかった。

 書店には自助本のコーナーがあるのに、なぜ人助け本のコーナーがないのだろうと、シェリル・サンドバーグと私はいつも嘆いている。本書こそ、人助け本のコーナーにふさわしい一冊だ。人の最もよいところを最大限に引き出し、励ますと同時に意欲をかき立て、「ピープル・ファースト」の考えを口先だけでなく実際に行動に起こすための手引きなのだから。

 ビル・キャンベルの物語の何がすばらしいかと言えば、彼について読めば読むほど、自分も日常生活で彼のような人間になれる機会に気づけることだ。

 たとえば、どんな人にも尊厳と敬意を持って接するといった小さな心がけから、チームメンバーの生活に心から──彼らの子どもが通う学校を知るほど──関心を持つといった大きな心がけまで、彼の教えを実践するチャンスはいくらでも見つかる。

 ビル・キャンベルは、本で取り上げられたり、自分をテーマに本が書かれたりする名誉を、望みも求めもしなかった。だが彼の秘訣を「オープンソース化」するのは、自分の知識や知恵を惜しみなく分け与えることに生涯をかけた人物にふさわしい賛辞ではないだろうか。

(本原稿は、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著『1兆ドルコーチ──シリコバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』〈櫻井祐子訳〉からの抜粋です)

アダム・グラント(Adam Grant)
ペンシルベニア大学ウォートン校教授、心理学者。著書に世界的ベストセラーとなった『ORIGINALS─―誰もが「人と違うこと」ができる時代』『GIVE & TAKE─―「与える人」こそ成功する時代』(ともに三笠書房)、共著に『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』(日本経済新聞出版社)がある。意欲や生きがいを見出し、より豊かで創造的な生を送るための研究の第一人者。アメリカ心理学会と国立科学財団から業績賞を受賞し、ニューヨーク・タイムズにも論説を寄稿している。妻と3人の子どもとともにフィラデルフィアに在住。