世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。
その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、なんと大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ=ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか?
脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が激賞する『哲学と宗教全史』が、2400円+税という高額本にもかかわらず、6万部を突破。「日経新聞」「日経MJ」「朝日新聞」「読売新聞」「北海道新聞」「中国新聞」「京都新聞」「神戸新聞」「中日新聞」にも掲載。“HONZ”『致知』『週刊朝日』『サンデー毎日』「読売新聞」でも書評が掲載された。
このたび、8/8に発売された本書が、開店50周年を迎えた紀伊國屋書店梅田本店で12/7に「実売1000冊」を達成した。その一報を聞きつけた担当編集が、発売前から熱心に本書の販促に関わってきた紀伊國屋書店梅田本店の百々典孝(どど・のりたか)氏と合流。業界屈指の書店員と担当編集との初対談。どんな裏話があったのだろうか。(構成・寺田庸二)

出口学長の“ウラへ”の呪文!<br />赤字を入れながら感動したのは<br />141作目で初めてPhoto: Adobe Stock

恐るべき「ウラへ」の呪文

出口学長の“ウラへ”の呪文!<br />赤字を入れながら感動したのは<br />141作目で初めて百々典孝(どど・のりたか)
1971年2月27日生まれ。1990年、株式会社紀伊國屋書店入社。梅田本店、札幌本店、本町店などを経て2009年に三度目の梅田本店勤務、様々な店舗、部署を歴任する。2013年、OBOPを取次、書店有志と立ち上げる。

――僕は『哲学と宗教全史』が出口さんとの初めての仕事だったのですが、これほど語彙が豊かで人間性も素晴らしい著者は初めてでした。
出口さんにゲラをお渡ししたら、徹底的に加筆されました。
出口さんのゲラには「ウラへ」という呪文のようなサインがあって、めくってみると裏にびっしり赤字が入っている。
表は「縦」書きなのに、ウラは「横」書き。そのほうが、たくさん文字が入るから(笑)。
僕がその赤字をカタカタ入力していると、文章が研ぎ澄まされ、光り輝いてくる。一番勉強したのは僕でしたね。
著者の赤字を入れながら感動したのは、生涯141冊目で初です。
出口さんは僕がわかりにくいと指摘した箇所にも、
絶妙なコントロールで赤字を入れてくる。
そんなとき、読者の笑顔が思い浮かびましたね。本当に感動しながらつくったのが『哲学と宗教全史』。まさに「有り難い」レアな経験です。

出口学長の“ウラへ”の呪文!<br />赤字を入れながら感動したのは<br />141作目で初めて寺田庸二(てらだ・ようじ)
担当書籍は『哲学と宗教全史』『ザ・コピーライティング』『志麻さんのプレミアムな作りおき』『カヨ子ばあちゃん73の言葉』『第一人者が明かす光触媒のすべて』『1坪の奇跡』など。『社員15倍!見学者300倍!踊る町工場』で処女作21作連続重版へ挑戦中。生涯142冊、重版率8割。野球歴14年。技術と精神がドライブがかった本を、孫の世代まで残る本を、光のあたらないところに光があたる本を。

百々 本当にすごい、政治家になるべきです(笑)。

――今は政治家ではなく、立命館アジア太平洋大学(APU)の学長です。しかも、学長国際公募で推挙されての就任でした。

百々 その経緯がすごいですよね。だからこそ、出口さんのバックボーンがどんなものなのか探求したい。出口さんにお会いすると、毎回ずっと一緒にいたい気持ちになる。

――同感です。出口さんのすごいところは、丁寧さです。
僕のしつこい質問にも、どまんなかの豪速球を投げ返してこられたので、気持ちよく仕事ができました。
僕は昔、ずっと野球をやっていたのですが、僕にとっての名バッテリーといえば、元ヤクルトスワローズの伊藤智仁さんと古田敦也さんです。
出口さんと仕事をしているとき、古田さんの気持ちがわかりました。
僕が「ここに投げて」と要求したら、出口さんはどまんなかに、うねりを上げてズバンと投げ込んでくる。だから、僕は安心して、出口さんにわからないところは「わからない」と正直に伝え、加筆依頼を遠慮なくできたのです。
『哲学と宗教全史』巻頭・巻末にある三つ折りのカラージャバラはその最終形でしたね。

百々 かまえたところに全部くる!(笑)

――そうなんです。針の穴を通すようなコントロール。出口さんが伊藤智仁さんに見えましたね(笑)。つづきはまた次回、お話を聞かせてください。
これまでの『哲学と宗教全史』の連載ダイジェストはこちらをご覧いただければと思います。