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インキュベーションの虚と実

ひとりよがりでは最強のチームをつくれない
間違いだらけの人と組織

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第8回】 2012年8月6日
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 ベンチャー企業の意思決定は、民主主義では無理だ。しかし、価値観がバラバラな組織でトップダウンの意思決定が続くと、心は離れていく。だからこそ、価値観を共有した仲間とやるのが大切なのだ。ちなみに、ザッポスではカルチャーに合う人のみ採用している。コア・バリュー(価値観)に合致しなければ、いくらスキルが高くても迷いなく落とす。

 組織ができてくると、安易に外から経営陣に加えるのは問題もある。まだ専門家はいいが、現場に近いリーダーは内部の人を育て、上にあげる方がうまくいくことが多い。カルチャーを体現し、現場をよく知る人の言葉には説得力がある。育てるには、抜擢してOJTすることだ。

 また、グロービス・キャピタル・パートナーズ仮屋薗聡一氏は、『崇高な目的』『コミットメント(覚悟)』『成長実感』(チーム志向で全社が成長を感じること)の三つがベンチャーが大きく成長するための条件と言う(参考「投資のプロがザッポス伝説に見るベンチャー成功の条件」)。こういった燃える集団をつくりたいものだ。

 ミッション、ビジョン、バリューは、ベンチャー経営の要諦だが、初期は明文化されていないことが多い。一方で、スタートアップのチームは、偶然性が高い。だからこそ、最初に声を掛ける相手は価値観と目指すものを共有できる仲間が望ましい。そしてじわじわと広げていく努力を続けるのだ。

間違いだらけの人のマネジメント
なぜかできていないこと

 本連載第7回で、優秀な人を高い給与で雇うが、活躍し難いようにしてしまう例を書いたが、これをしょっちゅう見受けると言うベンチャー・キャピタリストもいた。三顧の礼で素晴らしい人材に入ってもらっても、結局は使用人扱いでは話にならない。

 言い換えると、自分よりできる人を入れたくない、だから会社が大きくならない。余談だが、マイケル・デルは、意図して自分より年上の実力者を何人も経営陣に招き、自分を教育させた。その結果、会社は大きく発展し、デル氏は優れた経営者に成長したのである。Facebookも、マーク・ザッカーバーグが大幅に年上の女性経営者シェリル・サンドバーグを懸命に説得して迎え入れて、いまがある。こうした例が日本でどれだけあるだろうか。

 そして、カルチャーは大切だが、もちろんお金なしでは雇えない。給与は重要だ。しかし、低い固定給だけで、案外とぞんざいに扱われていることが多い。スタートアップ数名の時点で給与体系もなにもあったものではないと思うかもしれないが、第4回のお金の話でも出てきたように、共同創業者のオーナーシップやインセンティブは重要な課題だ。

 業績連動や目標管理による変動分がなくシンプルな固定給だと、役所と同じだ。よほどビジョンやリーダーシップなどでヤル気を醸成しないと、ワンマン社長の掛け声のみになってしまう。ベンチャーこそ、やったら報いるのが定石ではないだろうか。もちろん、業績連動や目標管理には、指標が必要になる。初期は「えいや」で決めることになるだろうが、多少チームが大きくなるとちゃんとしたマネジメントが求められるようになる。もっとも、無理な目標を示して歩合制にする例も見受けるが、マイナスにしかならないのでご注意を。あるいは、前にいた会社の制度を流用する例もある。大組織の仕組みをベンチャーに当てはめても、細かすぎたりしてフィットしない。そう難しいことではなく、シンプルで分かりやすく、ヤル気が出る仕組みをつくればいいのだ。

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本荘修二

新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Ventures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。「エコシステム・マーケティング」など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

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