個人情報ゴールドラッシュ#3Photo:Busakorn Pongparnit/gettyimages

巨大企業がデータを独占する米中、情報ポータビリティを義務化した欧州に続く、情報ビジネス「第三の道」と呼ばれるのが日本の情報銀行だ。特集『個人情報ゴールドラッシュ』(全6回)の#3では、日本発の画期的なコンセプトに迫った。(ダイヤモンド編集部特任アナリスト 高口康太)

データは21世紀の石油
高まる期待と変わらぬ現実

「パーソナルデータは新しい“石油”、すなわち21世紀における価値ある資源になるだろう」

 2011年1月に発表された世界経済フォーラムの報告書「Personal Data: The Emergence of a New Asset Class」(個人情報:新たな資産ジャンルの出現)の一節だ。あれから9年、「データは21世紀の石油」という言葉は耳慣れたものになった。そればかりか、データビジネス、データ駆動型社会、データエコノミーなど「データ***」というフレーズもすでにそこら中で見掛ける。

 データを材料に学習するAI(人工知能)の進化も目覚ましい。個人情報を大量に取得して覇権的地位を築いた米国の「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムの頭文字を取った略称)など、巨大ITプラットフォーマーの脅威についても毎日のようにニュースが流れている。リクナビを運営するリクルートキャリアが学生の同意を得ないまま内定辞退率を予測したデータを企業に提供していた「リクナビ問題」もあり、日本企業によるデータ利用も新たな脅威として受け止められた。

 可能性と脅威の両方でデータに関する話題は大いに盛り上がっている。こうまとめると、データの時代が到来したかのように思えるが、ちょっと待ってほしい。ビジネス書やニュースでは「データ、データ、データ」と連呼されているが、私たちの生活は本当にそこまで変わったのだろうか。

 データビジネスの代表例が「行動ターゲティング広告」だろう。消費者のインターネット上の活動履歴を収集し、個々の人間がつい手を出したくなるような広告を表示させるという技術だ。膨大なデータを保有するグーグルやフェイスブックはより精度の高い行動ターゲティング広告を出せるため、他の企業が太刀打ちできなくなると懸念されてきた。

GAFAPhoto:Chesnot/gettyimages

 だが、実際に私たち消費者の視点から考えてみると、ウェブ広告を見て「おお、これぞ私が探していたものだ、教えてくれてありがとう」となることはあまりない。「40代の中年男性なら引っ掛かりそう」という程度の精度しか持っていない。結局のところ、何か買い物をしようと思うと、自分で情報を集めてくることになってしまう。

 GAFA恐るべしと言いながらも、物足りなさを感じている人が多いのではないか。彼らは膨大なデータを持っているが、現状ではSF小説的な、かゆい所へ手が届くサービスを行うには不足している。

 実はデータによる消費者理解では、GAFAよりも中国のBAT(検索大手バイドゥ、電子商取引大手アリババグループ、メッセージアプリ・エンターテインメント大手テンセントの頭文字を取った略称)の方が優れているという。

 ある中国大手IT企業関係者は匿名を条件とした取材において、「GAFAはグローバルな巨大企業ではあるが、グーグルは検索、フェイスブックはSNSといった具合に、事業が特定の分野に集中している。BATはほとんどの業務が中国に集中している一方で、主力事業以外にもさまざまな分野に展開、またはパートナー企業に出資しており、広範なデータによる消費者理解で優れている」と明かした。納得できる話だが、このBATですらSF小説には程遠い。