ITシステムの活用には
「目的」と「ビジョン」が必要
テクノロジーを駆使して進化を続けるパーク24グループの生命線ともいえるのが、TONIC(Times Online Network & Information Center)という情報システムだ。
TONICは、まだ常務だった西川光一氏が、タイムズパーキングの管理・運営のオンライン化を目的に提案して構築を進め、2003年に導入したものだ。
その当時は、導入したからといって即座に売り上げが増えるわけではないシステムに、役員全員が反対したという。
だが導入以前は、週1回社員が駐車場に集金に行くまでは、稼働状況すら把握できない状態だった。何らかのトラブルが発生したり、不正駐車されたりしていても、1週間は検知できなかった。
西川氏は、そんな状態に危機感を覚え、「駐車場はサービス業。これではきめ細かな顧客サービスは望めないし、このままでは将来とんでもないことになる」と訴え、反対を押し切ったのだ。
それが今では駐車場業界で最も進んだITインフラに成長。パーク24グループが今後さらに進化、発展していくのに欠かせないエンジンとなっている。
ところで近年は、「最近流行のIoTやAIを自社にも導入せよ」とか、「デジタルトランスフォメーションを推進せよ」などと声高に叫ぶ企業トップが少なくない。
だが、どのようなサービスを提供し、どんな価値を顧客に提供したいのかも分からずに、ただ流行に乗り遅れないためとか、コスト削減を目的にIT化を進めようとしてもビジネスは発展しないだろう。
大事なのは「目的」や「ビジョン」なのだ。
本書によると、西川氏が2003年に進めたTONICの初期開発費用は約40億円。当時のパーク24の年間連結売上高は426億円、経常利益は56億円だ。利益の約7割を、将来を見据えたシステム投資にあてる決断は、並大抵のものではなかったろう。
だが、それがあったからこそ、現在のパーク24がある。2019年の年間連結売上高は3174億円、経常利益は216億円である。
本書には、西川氏が描くITサービス企業としてのビジョンや、それに向けた取り組みが具体的に説明されている。
ぜひそれらを参考に、ITを活用することで、どのような自社の未来が描けるかを、考えてみてほしい。
(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)