米ニューヨークのタイムズスクエア閑散とした米ニューヨークのタイムズスクエア。企業は危機が去った後の成長戦略を描くために、今すべきことは何かを考えるべきだ Photo:Noam Galai/gettyimages

 新型コロナウイルスの感染拡大により、世界経済が大混乱している。だが私の活動するシリコンバレーでは、「今こそ先行投資すべきときだ」というのが共通の意識だ。

 この先行投資は企業の新陳代謝の源であり、日本が「空白の20年」を招いた体質から脱する鍵でもある。その理由を事業の栄枯盛衰のサイクルを表す経営理論、「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」の枠組みを使って考えてみよう。

 事業の栄枯盛衰は四つのステージを経る。

(1)まだ市場での地位は低いが、事業が成長し始めている「問題児」。成功は未知数だがその予備軍だ。

(2)特定の市場での強い立場を構築し、事業が急成長する「スター」。事業拡大のための資金需要が大きく利益は少ないが、将来の収益源となる希望の星。

(3)市場での地位を確立し、収益を生む「金のなる木」。

(4)市場が停滞し、事業の成長も止まることにより収益が低下して活力を失った「負け犬」。

 企業が成長を続け健全な経営を維持するには、このPPMを意識的に回す必要がある。すなわち、事業が(4)「負け犬」になる前に、収益の大きい(3)「金のなる木」のときに稼いだ資金を新しい事業である(1)「問題児」に投資をして、(2)「スター」を育て、新しい(3)「金のなる木」をもたらすのだ。

 だが「言うは易し」である。多くの日本企業は(4)の「負け犬」事業を大胆に整理できない。景気が良いときまで先送りするからだ。

 日本企業において深刻なのは、成長のドライバーとなる(1)「問題児」と(2)「スター」事業がほとんど見当たらなくなってしまったことだ。

 例えば家電は軽薄短小化の流れの中で半導体やエレクトロニクス分野が急成長したが、危機のたびに新規投資を減らし、未来の新事業の芽を自ら摘んでしまった。また、同時に起きていたデジタル化と、ハードウエアからソフトウエアへ転換するための投資も遅れた。

 今回のような経済危機は、逆に思い切った手を打つチャンスだ。前車の轍を踏まないように、今こそ先行投資を進めてほしい。