社員が在宅勤務をしていても、会社と管理職には社員が健康に働くための環境を整える義務が発生する。前代未聞の緊急事態で、社員のメンタルを守るために会社には何が必要なのか。特集『在宅勤務のメンタル危機』(全6回)の最終回では、会社と管理職が社員の在宅勤務時に取るべき対応について考えてみよう。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
ストーカー上司にIT音痴会社…
在宅勤務社員のメンタルを追い詰める“残念な会社”
「おいおい、在宅勤務で子供を見ながらだと仕事できない、って言ってるわけ?甘えたことを言われても困るんだよ。仕事は仕事だからね?」
在宅勤務で働く佐野さおりさん(仮名)は、上司から電話できつい言葉を投げ付けられてあぜんとした。5歳の娘が通う保育園は緊急事態宣言後休みに入り、共働きの夫と共に在宅で育児をしながら何とか仕事をこなしている。定時の業務報告で現在自分が在宅勤務で置かれている状況を正直に報告し「なんとか頑張りたい」と書いたところ、そんな怒りの電話がかかってきたのだという。
同じく在宅勤務中の大磯卓也(仮名)さんのところには、上司から2時間に1度電話がかかってくる。
プルルル「ねえ、あの資料いつできるの?」
プルルル「頼んだ作業、ちゃんとやってる?」
プルルル「さっきの資料、意味がよく分からないんだけど」
プルルル「電話、すぐ出てよね?ただでさえ、大磯くん仕事遅いし、正直こっちも在宅だと何やってるか分からなくて、困るんだから」
昨日など、うっかり携帯電話を自宅に忘れたまま娘を連れて2時間ほど外出したところ、8件もの不在着信があった。全部上司からだ。どんな緊急事態かと慌ててかけ直すと、そこまで急ぎではない伝票の出し忘れという用事だった。個人用の携帯にまで追い掛けるように電話がかかってくることもある。
「よっぽど俺、信用されてないんだな。在宅勤務だとさぼってると思われてるんだろうか」――。
社員の多くが在宅勤務を始めるのに伴い、会社や管理職にも対応が求められる。だが社員個人が準備できていないのと全く同様に、会社や管理職も在宅勤務の準備はできていない。社員の働き方改革を実現して、ゆくゆくは会社の競争力も向上させるなどといった、美しい前向きな理由によるものではない。なにしろこれは、コロナ禍に伴う緊急事態宣言による“強制在宅勤務”なのだ。
ちまたのビジネス本には「意識と能力の高いGAFAの社員は、そこが自宅だろうと世界のどこだろうと、どこでも生産性の高い仕事をするし、会社もそれを支える評価体制やIT環境などのインフラを整えている」などなど、リモートワークの素晴らしい成功モデルがきらびやかに紹介されている。
だが、働く人の全てが意識も能力も高いGAFA社員になれないのと同様に、全ての会社の意識が高く、リモートワークの体制整備が行えるだけの体力と技術を持ち合わせているわけでは、当然ない。冒頭の2件のパワハラ上司の例も、どちらもこの強制在宅勤務期間に、実際に起こった話である。
他にも「社員が自宅で仕事をするためのパソコンやネット環境すら整えることができておらず、実質的に仕事が何もできない」とか「会社支給のパソコンでは、セキュリティーの問題でウェブ会議ソフトが開けないので、個人のスマートフォンのフェイスタイム(テレビ電話機能)で数時間オンライン会議をやっている」など、涙がこぼれるほどお寒い状況が続出している。このように会社の体制が整っていない中で、在宅勤務をしなければならない社員のストレスは増大する。
それどころか「在宅勤務の説明会を会社でやりますので、全員出社してください」「客先との打ち合わせがリモートなんて失礼だ。出社して会議室でやりなさい」「在宅勤務していることにして出社してくれないか」――など、在宅勤務の概念やステイホームの趣旨をそもそもあまり理解していない“残念な会社命令”も数多くあるようだ。