「1兆秒前」はネアンデルタール人が絶滅した頃

 一般に、数が大きくなると、その大きさを実感するのは難しくなる。たとえば、1兆。あなたは「1兆」の大きさを正しくイメージできるだろうか? 「兆」という単位は国家予算(日本の一般会計予算は約100兆円)とか、細胞の数(ヒトの体の細胞は約60兆個)とかで見ることがあるだけで、普段はほとんど使わないだろう。いわんや「○兆個」のものを目にする機会は滅多にない。私たちが「兆」のスケールを実感できないのは無理もないのだ。

 1つの目安として、「1、2、3、……」と1兆まで数えるとどれくらいの時間がかかるかを概算してみよう。1時間は3600秒で1日が24時間なので、1日は約9万秒。1秒につき1ずつ数えたとして(桁が増えてくると追いつかなくなるが)、概算なのでざっくり1日あたり10万までは数えられることにすると、1年では3650万まで数えられる。

 3年で約1億。1兆は1億の1万倍だから……1兆まで数えるとおよそ3万年かかる計算になる。ちなみに今から3万年前というと、ネアンデルタール人が絶滅した頃である。こう言われると、そんなにかかるのか!と驚かれる方も多いのではないか。

 今から1兆秒前というのは、ネアンデルタール人が絶滅した頃である、という意味がついてはじめて、1兆がとてつもなく大きな数であることを実感する人が少なくないように、ぼやけた印象になりがちな大きな数字も、意味を添えてあげればイメージがしやすくなる。そして、数字に意味をつけたいときにうってつけなのが、先ほども使った「~あたり……」という単位量あたりの大きさである。

「1兆」にも単位量あたりの大きさを使って、いくつか意味をつけてみたいと思う。たとえば、1兆メートルを地球の1周あたりの長さ(約4000万メートル)で割ってみると、1兆メートルはおよそ地球2万5000周分であることがわかる。

 次に、1兆メートルを地球から太陽までの距離で割ってみよう。地球から太陽までの距離のことを1天文単位といい、1天文単位は約1500億メートルなので、1兆メートルは地球から太陽までの距離の約6.7倍である。

 さらに、1兆回を人の生涯あたりの心臓の鼓動の回数で割ってみる。一般的に哺乳類は生涯で約20億回鼓動を打つそうだが、人生100年時代を迎えつつある我が国では生涯に打つ鼓動の回数は平均30億回程度と言われている。つまり、1兆回は人が生涯に打つ鼓動の約333人分である。

(本原稿は『とてつもない数学』からの抜粋です)