企業にとっては、「データ標準化とシステムの集約化にかかるコスト」の大きさも問題です。
具体的なメリットが見えなければ、投資に踏み切れないのも当然でしょう。そこで、効果を実感してもらえる機会を設けることにしました。
データサイエンティスト、セキュリティエンジニアなどの専門家を擁するグループ企業KPMG Ignition Tokyoでは、クライアント企業に実際のデータの一部を提供してもらい、そこからどんなインサイトが導き出せるのかを体験してもらっています。
そのインサイトには、あずさ監査法人内に新設されたDigital Innovation部が提供するツールを活用します。たとえば「子会社リスクスコアリング」では、統計手法などを用いて子会社財務データを全量分析し、リスクを数値化することで、客観的に各社の不正の兆候や異常な動きを特定します。
そのほかにも、業務プロセスを見える化する「プロセスマイニング」などのさまざまなツールを通じて、データ活用がどのようにガバナンスの高度化につながるのかを実感していただいています。
こういうことがわかるなら、もう少し別のデータを出してもいいというクライアントも増えそうです。
その通りです。実際にそういう声は多く、パイロットレベルではありますが、すでに15社ほどに、リアルタイム監査基盤「クララ」を導入いただきました。
企業にとって監査は、投資家の信頼を確保すると同時に、組織をより強くするためのものです。それゆえ経営者には、「未来への投資」としてAI監査に積極的にコミットしていただきたい。我々もクライアントの課題や不安と向き合いながら、導入を支援していきます。
多様な人材が刺激し合い
イノベーションが生まれる
いま、多くの日本企業ではAI人材の不足が深刻化しています。ただし、事業を牽引してきた内部のコア人材が、これまでとは別のスキルやマインドセットを身につけない限り、外からいくらタレントを獲得しても、経営にインパクトをもたらすことは難しいと思われます。
ちなみに監査法人としては、この問題にどう対処していますか。
もともと会計士は保守的で、ともすれば現行の制度の中で仕事を完結させようとしがちです。
しかし、それだけではデジタルテクノロジーを十分に活用して、社会とクライアントの新たな期待に応えることはできません。監査法人のコア人材である会計士がデータ分析などの基本を理解し、ITを活用した監査のスキルを高めることで、現場の監査業務のデジタル化が初めて実現します。
今年(2019年)7月に理事長直轄の組織としてDigital Innovation部を立ち上げたのも、AI監査に本気で取り組んでいく姿勢を内外に力強く示すためです。
多様な知識やアイデアが交じり合い、互いに刺激し合うことで、従来の発想に囚われない新たな事業モデルが創発されます。専門性の殻に閉じこもるのではなく、開かれた「新たなプロフェッショナリズム」を追求していくことが、我々に課された使命だと受け止めています。
*連載【第2回】はこちらです
- ●企画・制作:ダイヤモンドクォータリー編集部
-