新型コロナウイルスによるパンデミックは未だ収まる気配がありませんが、世の中は経済活動再開に向けて恐る恐る動き始めています。
歴史を振り返れば、人類は幾度となくパンデミックに直面し、それを乗り越えてきました。
果たして、今回のパンデミックは人類に何をもたらすのでしょうか。そして、世の中をどう変えていくのでしょうか。
『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(ダイヤモンド社)を刊行した農林中金バリューインベストメンツCIOの奥野一成氏が、日本を代表する教養人であるAPU(立命館アジア太平洋大学)学長の出口治明氏と語り合いました。
お二人の対談は、パンデミックから始まり、教育、企業経営、働き方、投資に至るまで、幅広く展開していきました。注目の後編です。(構成/鈴木雅光)
是非とも秋入学の実現を!
奥野 教育に関連したところでいうと、今回のパンデミックによって大学の秋入学が議論されました。立命館アジア太平洋大学(APU)の学長を務めておられる出口さんは、秋入学についてどう考えていらっしゃいますか。
出口 大賛成です。というか僕は、大学は秋入学にするべきだという話を、もう10年以上も前から言い続けているのですが、誰も聞く耳を持ってくれない。ようやく注目される時代になったということですね。政府は今すぐにでも秋入学をやりますと宣言するべきです。受験を控えた高校3年生にとって一番の不安は、ステイホームによって満足のいく受験勉強が出来ないことです。だからこそ、来年は春入学に加えて秋入学も行えば、受験生にとっては2回、入学試験のチャンスに恵まれます。そうすれば焦らずに済む。ちなみに僕が学長を務めているAPUではすでに春入学と秋入学を行っています。もちろん秋入学は海外からの留学生が中心ですが、世界的に見ても大学は秋入学が常識です。秋入学の導入は、日本の大学を選ぶ留学生を増やすために必要不可欠な手段のひとつです。そもそも春入学だと受験は2月ですよね。2月といえば厳寒期ですから受験生は体調を崩しやすくなりますし、受験会場に行くのも雪などで一苦労です。もっと言えば、秋入学にすれば「夏の甲子園」を「秋の甲子園」に出来ますから、酷暑の中で根性を試すようなことをせずに済むじゃないですか。ただし、小学校から高校まで一挙に秋入学に転換するのは大変だから、それは5年くらいかけてゆっくり直していけばいいのです。
奥野 企業にも問題があると思います。大半の企業は今も4月一括採用なので、大勢の学生が同じ時期に同じ服装で企業訪問をします。あの風物詩を見るたびに「日本は終わっているな~」という印象を受けます。
出口 秋入学を導入すれば企業も変わらざるを得ません。今、政府がやるべきことのひとつは、大学の秋入学の実現ですよ。交付金を減らすと言えば、どの大学も秋入学を導入するはずです。
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県美杉村生まれ。京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年4月、生命保険業免許取得に伴いライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2012年、上場。社長、会長を10年務めた後、2018年より現職。訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊超。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。おもな著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『仕事に効く教養としての「世界史」I・II』(祥伝社)、『全世界史(上)(下)』『「働き方」の教科書』(以上、新潮社)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『人類5000年史I・II・III』(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇、中世篇』(文藝春秋)『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『還暦からの底力』(講談社現代新書)、『「教える」ということ』(角川書店)など多数。