高級和牛を売りまくる、こだわりの専門店。そのネットショップがECモールへの出店を拒む理由とは。特集『ECのニューノーマル』(全8回)の#1では、既存のECモールとは異なる道を選択した精肉店の姿を追った。(ダイヤモンド編集部特任アナリスト 高口康太)
おいしい肉は
美しい
「もう、『お肉さま』と呼ぶしかない」――。
東京都世田谷区の住宅街にある和牛専門精肉店TOKYO COWBOY、その店内に足を踏み入れたときに最初に浮かんだ感想だ。
普通の精肉店ではガラスの陳列棚の中に切り分けられた肉が並ぶが、ここではまったく違う。大きな肉の塊がドーンと存在感を放ちながら、冷蔵ケースの中に収められている。しかも、一つ一つの肉がライトアップされ、まるで宝飾店のディスプレーのようだ。
「おいしい肉は美しいので、こうやって飾るんです」と話すのは、TOKYO COWBOYを運営するJNYコーポレーションの上野望代表取締役。外資系証券会社を辞め、2015年にこの店を立ち上げた。黒毛和牛、しかも未経産の雌牛しか扱わない高級和牛店として、日本中の肉好きから評価されている。
さらに「嵐にしやがれ」などテレビ番組でたびたび取り上げられていることもあって、「あの芸能人と同じ肉を食べてみたい」という注文も舞い込むという。そんな、高級和牛を売りまくるTOKYO COWBOYから学ぼうと、多くの精肉店が視察に訪れるというが、この型破りなディスプレーには皆が驚く。そもそも牛肉の販売だけで経営が成り立つのが常識破りなのだそうだ。「一般的な精肉店では牛肉の売り上げは2割程度なんです。豚と鶏が中心なんですね。牛肉だけで商売になるのかとびっくりされますね」と上野氏は笑う。
常識破りの店を成り立たせているのは、「こだわり」と「作り込み」だ。肉の塊を並べているのは単に見栄えのためだけではない。客の要望に合わせた厚さや形で切り出すフルオーダーカットを実現するためだ。TOKYO COWBOYでは肉を切り出す職人を「ミートコンシェルジュ」と呼ぶ。客の要望をヒアリングし、一番ふさわしい肉を提案する役割はまさにコンシェルジュそのものだ。