打倒・楽天の切り札としてヤフーが発表したXショッピング。日本の小売りが抱えていた課題にフォーカスした新戦略とは何か?特集『ECのニューノーマル』(全8回)の#5では、ヤフーEC事業が目指す未来を解明した。(ダイヤモンド編集部特任アナリスト 高口康太)
革命いまだならず
ヤフーECの現在地
「2020年代前半に日本市場のEC取扱高でトップになりたい」
Zホールディングス(HD)の川邊健太郎社長は3月24日に開催された記者会見で、EC(電子商取引)事業で日本一を目指す意気込みを示した。EC事業は、傘下のヤフーで主に手掛けている。楽天、アマゾンに引き離された3位からの脱却は長年の悲願だ。
ヤフーがECトップを目指す戦略を明確にしたのは、13年にさかのぼる。当時まだヤフー(ZHDの前身)の経営に関与していた孫正義氏が「Eコマース革命」を標榜し、Yahoo!ショッピングの出店料と売り上げロイヤリティーの無料化を打ち出した。無料を武器に出店者を集め、圧倒的な規模を獲得するという戦略は、中国EC最大手のアリババグループが淘宝(タオバオ)で成功した手法だ。アリババには親会社のソフトバンクグループが出資しており、ZHDにとっては兄弟ともいえる身近な存在。タオバオばりの無料化で、ヤフーショッピングのショップ数は13年時点に2万店だったのが、87万店舗(2019年3月末)を超えるまでに激増した。
無料化と並行して、多ブランド化も進めた。12年に資本提携先だったアスクルと協業で、日用品通販サイト「LOHACO」を開設。15年にはそのアスクル、19年にはZOZOを買収して傘下に加えている。
また19年にはプレミアムマーケットという位置付けでPayPayモールをオープンし、EC事業を多角化。Yahoo!ショッピングからもPayPayモールの商品を買えるといった、個々のECサイトの枠を超えた連携にも踏み出している。
それでも「万年3位」
脱却は困難!?
こうした施策によって、ZHDのEC事業の取扱高は2兆5936億円(20年3月期)にまで拡大した。Eコマース革命を宣言して以来、約7年間で約1兆円伸ばしている。
にもかかわらず、現在まで米アマゾン・ドット・コム、楽天の後塵を拝し続け、「万年3位」の座からは抜け出せていない。楽天の国内EC取扱高は年間3兆9000億円(2019年末)で、まだ1兆3000億円もの差をつけられている。
3月の記者会見で川邊社長は「楽天の背中が見えた」とも口にしたが、実際に楽天を逆転するには、過去7年間で増やした以上の規模で取扱高を増やすことが必要となる。どうすればこの隔たりを埋めることができるのか――。その鍵となるのが、3月の記者会見で川邊社長が発表したX(クロス)ショッピング構想だ。