「フォトショップ」や「イラストレーター」など、クリエイター御用達のソフトウエアで知られる米IT大手のアドビシステムズ。だが、2018年には60億ドル以上を投じて、マーケティングやeコマース関連企業を次々と買収。ビジネスの幅を拡大している。シャンタヌ・ナラヤンCEO(最高経営責任者)に、アドビの戦略を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 大矢博之)
マイクロソフトCEOと話すのは
どうすればより早く革新できるか
――米マイクロソフトのサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)とはインドの同じ高校(ハイデラバード公立学校)出身だと聞きました。そして、マイクロソフトもサブスクリプションビジネスで成功している企業です。ナデラCEOとビジネスについて語ることはあるのでしょうか。
アドビとマイクロソフトは長年にわたりパートナーシップ関係を築いてきました。ご存じのように、ウィンドウズはアドビにとって非常に重要なプラットフォームです。 そしてわれわれは、クラウドサービスのAzureを採用した最初の企業の1つでもある。
確かに業界の動向や、お互いが何を見ているかを(ナデラ氏と)話すことはあります。ただ、彼は既に素晴らしい仕事をしています。彼に助言することよりも、多くのことを学び共有しています。
――例えばどんなことを学び、共有しているのですか。
そうですね、私たちは2人とも、コア製品の担当者に属していると私は考えます。そして、どうすればより速いペースで製品を革新できるかを共有していると感じます。革新に関して注視しているのは、どうすればより良い製品を届けることができるのかというサティアの情熱であり、私の情熱。ですから、私たちは製品投入スピードについて、多くのことを話していると思います。
――あなたやナデラCEOの他にも、米グーグルのサンダー・ピチャイCEOなど、シリコンバレーではインド出身の経営者が目立ちます。
私が思うに、インドで育つと、ほとんどの人はエンジニアか医師になるよう託されます。ただ私は実際にはジャーナリストになりたかったんですよ(笑)。
――ジャーナリスト志望だったんですか。でも今はアドビですよね。
あなたもメディア業界にいるから分かるかと思いますが、アドビは出版に関わるメディアですよ。
話を戻すと、インド(の若者)は工学や医学を勉強したいという願望が強い。そして私たちは皆、若いころに米国に渡りました。インドと米国の二重の文化を体験したことが、サンダーやサティア、そして私に恩恵をもたらしたと思います。さまざまな意味で、米国は友好的で心地よい環境です。それこそが米国の強みであり、米国で成功した3人のインド人としての強みよりも大きいと思います。
私たちは確かに情報を共有していて、長年にわたってお互いのことを知っています。ただ米国の強みはインド人だけでなく、全ての人から学び、全てに適合すること。米国は究極の“るつぼ”です。
――アドビは画像やクリエイティブの領域が強みです。しかし、昨年マルケトやマジェントといったマーケティングやeコマース関連企業を買収しました。なぜこの領域のビジネスを拡大しようと考えたのでしょうか。
インターネットにウェブの最初の世代が登場したときに、アドビはウェブページの作成に商機を見いだしました。ですが、より大きな機会があるのはウェブサイトそのものの作成でした。そしてクラウド移行というトレンドを見たときに、われわれはモバイル端末で何が起きているかと注意深く観察したのです。
例えば出版業界でのアドビの役割を考えたときに、「インデザイン」や「フォトショップ」などのアドビ製品なしで出版する新聞や雑誌はありません。ですが、われわれは出版ビジネスそのものを手助けしません。
われわれはアドビのビジョンを、マーケティング分野の芸術だけでなく、ウェブサイトのデータ面での手助けへと広げることを決心しました。これは、マーケティングとコンテンツという自社の商機を見るときの“レンズ”を広げたのです。ビジネスをデータへと拡張することは合理的な判断です。
マーケティング領域で、アドビは何をしているのか。われわれは人々がコンテンツを作ることを手助けしてきました。そして今や、コンテンツを管理し、ウェブサイトやモバイルアプリケーションを通じてコンテンツを人々に届けることを手助けしています。コンテンツを誰が利用しているのか、「アドビアナリティクス」を通して、測定することができます。そして、マジェントなどのサービスを通して、集客やマネタイズを手助けします。
私の考えでは、偉大な会社はどうしたらビジョンを広げられるかを常に見ています。より広い領域に貢献し、より必要不可欠な役割になるためです。アドビの製品は1日8時間使うようなフリーランサーにとって必要不可欠な存在になっています。そして今、コンテンツを扱い処理する全ての企業にとっても必要不可欠な存在になります。アドビの使命はデジタル体験の世界を変えること。この視点で見続けることが考え方を広げ、企業の成長の原動力になるのです。