コロナで再燃した大学病院の無給医問題に、オンライン診療の解禁を認めざるを得なかった日本医師会。そして「もっとPCR検査を」の声で注目が集まる臨床検査技師の実態――。特集『コロナで激変!医師・最新序列』(全12回)の#9では、コロナがあぶり出した医療界の問題に迫る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子、鈴木洋子)
無給医問題が再燃
医局は依然ブラック職場?
大学病院といえば、1965年初版の小説『白い巨塔』があまりにも有名で、テレビドラマ化された際には、教授を先頭に医師や看護師が列を成して病院内を練り歩く、教授回診の場面が鮮烈な印象を残した。
大学病院は、今も教授を頂点としたヒエラルキー型の組織であり、その人事システムを、医療界では「大学医局(以下、医局)」と呼ぶ。現在はかなり改善されたが、まだまだ市中病院よりも医師は安くこき使われる上、コロナ危機下では、博士号の取得と引き換えに無給で診療を行う「無給医」にコロナ対応をさせていた大学があったことも報じられ、その閉鎖的な環境に厳しい目が向けられることが多い。
2003年以降、医学生は研修先に好きな病院を選べるようになったが、それ以前は出身大学の付属病院に就職するのが一般的だった。
大学病院は数の多少はあれ、関連病院、いわば“手下”を傘下に従えており、医局の医師を関連病院に送ってその勢力を維持している。
一見、前時代的に思えるが、田舎の関連病院にとっては、医局からの供給が医師を確保する貴重な手段だった。
近年の若手医師の大学離れが地域医療を崩壊させたという側面もあり、医局システム全てを悪というのは一面的な見方かもしれない。
遠隔診療の解禁をなし崩しにされた医師会の悲哀
「開業医の圧力団体」――。
日本医師会(日医)といえば、日本の医師全てが所属する団体のように考えている人もいるかもしれないが、冒頭の言葉が象徴するように、日医は開業医の割合が圧倒的に多い。
これまでも開業医の既得権益を死守すべく、さまざまな提言を政治の場で行ってきた歴史があり、日本の医師団体の中では、最も政治への介入力があるといえるだろう。
しかし、新型コロナウイルスはどんな権威にも決して忖度はしてくれない。このコロナ危機の中では、日医といえども、意に反する施策を認めざるを得なかった。
コロナ危機の中で特例的かつ時限的に、初診から保険が適用されることになった遠隔診療(電話やインターネットを介した診療)に対して、もともと日医は明確に反対を表明していた。
「患者のためと言いながら、日医の重鎮が遠隔診療を使いこなせないというのが真意だと思う」(40代で開業医のJ氏)
しかし、ひとたび会員の開業医がコロナによる患者減にあえぐようになる(『コロナで民族大移動? 存在意義が揺らぐ開業医』を参照)と、渋々遠隔診療を容認。
「推進するには診療報酬が安過ぎる」(J氏)というのは、日医のささやかな抵抗のせいかは定かでないが「特例中の特例であり、例外中の例外」と強調するあたり、苦渋の決断だったことがうかがえる。
6月末に行われる会長選挙には、4期を務める横倉義武氏が、5期目を目指して出馬する。一時は引退を決めたと報じられたが、コロナで生じたほころびを修正し、かつて権勢を誇った日医の威厳を取り戻さんとする決意の表れなのだろうか。