「GO」(2001年)や「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)などで知られる映画監督の行定勲氏。又吉直樹氏が書いた恋愛小説を実写映画化した「劇場」が全国のスクリーンで大規模に公開される直前、緊急事態宣言により延期を余儀なくされた。それでも、前代未聞の状況下でリモート映画の制作や劇場公開と同時にインターネットでも配信するなど、新しい挑戦を続けている。特集『コロナで崩壊寸前!どうなる!?エンタメ』(全17回)の#10では、行定監督が見据えるコロナで確実に変わる“映画の未来”を聞いた。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
劇場公開と同時にネット配信するという
「異例の決断」の裏にある“映画愛”
――4月17日に公開が予定されていた映画「劇場」は公開が延期され、7月17日に劇場公開とAmazonプライム・ビデオでのインターネット配信の同時公開となりました。新作邦画が劇場公開と同時に配信されるのはかなり異例ですよね。
異例中の異例です。これまでの日本映画界の常識では、ネット配信やDVDはあくまで二次利用、劇場で公開し終えたものを二次的に使う方法でしかありませんでした。
本音を言えば、僕も含めて映画監督はみんな、映画館で自分の映画を上映したいものです。大きなスクリーンで上映するために映画を撮っているんだから。それでも今回同時配信という異例の決断に踏み切ったのは、今回のコロナで被った映画業界全体の損失のうち、たった数億円でも回収した方がいいと考えたからです。
本当なら「劇場」という作品は280スクリーンの大規模公開を予定していて、相当な資金がかかっていました。これを、上映規模を縮小して20スクリーンだけになる。しかも間引きした座席で見てもらうだけでは全く回収し切れない。そのため、ネットでの同時配信に踏み切りました。
――監督としても、苦渋の決断だったわけですか。
映画館は特別な空間です。僕ら映像に携わる人間としては、映画館が衰退していくことだけは避けたい。しかし、20スクリーンだけでは採算が取れないし、Amazon側もできるだけ新鮮な形で公開したいだろう。そうなると今回の状況下では、英断だったと思っています。
もちろんポジティブな側面もあります。今回上映する20スクリーンは全てミニシアターなんです。ミニシアターは今、大変困窮している状態なので、今回の「劇場」鑑賞をきっかけにシネコンしか知らない若者がミニシアターに行くきっかけになればと思っています。
また、Amazonプライム・ビデオは世界242カ国で配信されます。世界中の人の目に自分の作品が届くわけですから、それは素直にうれしいですね。
――今の状況が落ち着くのを待って、来年以降に公開を延期する選択肢はなかったのですか。
一次利用で配信する作品を視聴者に映画だと思ってもらえるのか、オリジナルビデオだと思われてしまうのではないかという懸念はありましたが、1年後までは待てませんでした。この映画は、小劇団に関わる男女の恋愛模様を描いていて、演劇の困窮さがリアルに伝わる今こそ、見てもらいたかったんです。
また、人気原作やシリーズ物など、確実にお客さんが付いている映画は延期しても大丈夫かも知れませんが、本作では延期が難しかったということもあります。