コロナで崩壊寸前!どうなる!?エンタメ#9Photo:PIXTA

日本人は美術展覧会が大好きだ。けん引役は、新聞社やテレビ局が主導するブロックバスター展といわれる大型企画展。主立った美術館もその恩恵にあずかってきた。しかし、新型コロナによってその事業モデルが大きく揺らいでいる。特集『コロナで崩壊寸前!どうなる!?エンタメ』(全17回)の#9では、大量集客を前提とした大型企画展ビジネスを解剖し、その行方を占う。(ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣)

余裕も見え隠れする美術館が
抱えている本当の問題とは

 日本には全国で1000館を超える美術館がある。その美術館もまた新型コロナウイルス禍に見舞われた。

 3月以降、休館や、展覧会の中止・延期が相次いだが、緊急事態宣言が解除された5月末以降、再開の動きが徐々に広がっている。

 展覧会の再開を控えた首都圏の美術館員は「待ちに待った日がいよいよやって来た」と感慨深げである。

 だが、世の喧噪から離れた静謐な美術館内には、どこか浮世離れした雰囲気が漂う。

 首都圏のある公立美術館の館長が打ち明ける。1000館を超える大小の美術館の半分以上は公立である。

「私たちは事業収支を厳しく問われるわけではない。与えられた予算の中でやっているので、コロナによって資金的に切羽詰まっているわけではない」

 では、美術館はコロナ禍をものともしないのか。もちろん、そんなことはない。ここ数十年にわたる日本の美術人気の“けん引役”がコロナでピンチになっているのである。

 そのけん引役とは、「ブロックバスター展」と呼ばれる大型企画展だ。下表の「2019年世界の美術展 入場者数ランキング」を見ていただきたい。

 1日当たり入場者数のトップ3には、ブラジルのドリームワークス展など入場無料の展覧会が並ぶが、有料展覧会では日本勢が軒並み上位を占める。東京都美術館で開催された「ムンク展」(入場総数67万人)、同じく「クリムト展」(58万人)、そして東京国立博物館の「特別展 国宝 東寺」(46万人)といった具合だ。

 高度成長期の1964年には「ミロのビーナス特別公開」が東京、京都で172万人を集め、74年には東京国立博物館の「モナ・リザ展」に150万人が足を運んだ。

 こうした誰もが知る作品の展覧会だけではない。西洋のオールドマスター(18世紀以前の巨匠)の展覧会もコンスタントに数十万人の観客を呼び寄せる。日本人は絵を見るのが大好きなのである。

 ところが、下表の「2019年世界の美術館 入場者数ランキング」を見ると、そこに疑問符が付く。

 ルーヴル美術館を筆頭とした、美術館そのものの観客動員トップ10に日本の美術館が食い込むことはない。上位に来ても20位くらいがせいぜいだ。

 例えば、ルーヴル美術館にも企画展のスペースはあるが、総展示面積6万m2に対して1800m2ほどにすぎない。観客のお目当ては、所蔵コレクション38万点の中からより抜かれた、3万8000点の常設展示作品だ。

 それに対して日本の観客のお目当ては、企画展、展覧会の方なのである。