菅政権の誕生でJAグループが戦々恐々としている。イチゴ農家出身で、農協の問題点の本質を理解している菅義偉首相は、近年の農協改革を主導してきた。特集『スガノミクスの鉄則』の#3では、改革が後退しつつある農協の問題に菅政権がどう切り込むかに迫った。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
自主独立のイチゴ農家出身
農業に「競争」と「経営」求める菅首相
菅義偉首相は自民党総裁選出馬の決意表明で、イチゴ農家出身の“たたき上げ”であることを強調した。他の候補者が共に2世議員であるのに対し、秋田県の寒村から成り上がった菅首相のサクセスストーリーはおおむね好感を得たようだ。だが逆に、農家出身のエピソードに震え上がっている組織がある。菅政権による規制改革を警戒するJAグループだ。
菅首相の父親は、農協頼みのコメ農家が多数派だった秋田県にあって、需要が増えると見込んだイチゴの生産を開始。販売先を独自に開拓し、「第二農協」ともいえる「生産出荷組合」を設立した。農家を支援する組織として農協以外の選択肢を示し、農家を束ねて産地をつくり上げたのだ。
そんな起業家のDNAを受け継ぐ菅氏が官房長官時代に、政府の規制改革推進会議が刺激的な提言を出した。JAグループで商社機能を担うJA全農の改革が進まない場合は、「真に農業者のためになる新組織『第二全農』を設立」することを提案したのだ。
この提言をまとめたのが、菅氏に近い金丸恭文氏(フューチャー代表取締役会長兼社長)だ。第二全農の設立をちらつかせて全農に身を切る改革を迫る発想からは、農協組織とそれ以外の農家支援組織が切磋琢磨してこそ、農業の競争力が高まるという菅氏の信条が見て取れる。
菅氏は、JA全中の解体決定(2015年)、肥料の値下げなどを求めた全農改革(16年)といった一連の農協改革の陰の司令塔だった。
農業に競争原理を持ち込もうとする菅氏が、金融事業にかまけて農業振興に腰を据えていないJAグループの現状を是認するとは考えにくい。
首相に就任してからの人事を見れば、改革への意欲は明らかだ。