スガノミクスの鉄則#4Photo:REUTERS/AFLO

2030年インバウンド6000万人――。コロナ前に掲げられたこの数字を、政府はコロナ禍でも据え置いた。ただ、数値先行の大号令だけで、具体的なアプローチに欠け、旅行業界からは怨嗟の声が上がっている。特集『スガノミクスの鉄則』の#4では、インバウンド6000万人の幻想について迫る。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

「インバウンド6000万人」を据え置き
菅政権は強気の姿勢を崩さない

「2030年にインバウンド6000万人の目標は達成できるはずがない。絵に描いた餅になるだろう」――。旅行業界関係者はこう本音を打ち明ける。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、大打撃を被っている観光業界。足元では、Go Toトラベルキャンペーンの東京発着分が解禁となり期待の声が上がるが、先行きは依然として不透明なままだ。

 20年8月のインバウンド(訪日外国人観光客)は前年同月比99.7%減となり、11カ月連続で前年同月の数字を下回る壊滅的な状況が続いている。10月1日からは入国制限が緩和されているものの、その対象はビジネス客などに限定され、観光客が戻る気配はない。

 この状況下で、政府がインバウンドに関する数値目標を崩していないことに、一部業界関係者の間では、驚きとともに怨嗟の声が上がっている。

 コロナ禍の7月に行われた政府主催の未来投資会議の資料には、「2030年に6000万人とする目標等の達成に向けて、観光先進国を実現するために官民一体となって取り組む」と記されていた。この未来投資会議は、菅義偉首相が官房長官時代に開催されたものではあるが、菅氏が進める経済政策の“たたき台”になっているとされる。

 同じく7月に行われた観光立国推進閣僚会議の資料でも、インバウンドについて「2030年6000万人の目標は十分達成可能である」と強気の姿勢を崩していない。

 こうした方針に対して「数値目標への具体的なアプローチがない」(旅行業界関係者)、「10年も先の数字だけを言い続けることにどんな意味があるのだろうか」(外資系証券)と疑問の声が噴出している。