菅政権の最大懸念事案ともいえる日産自動車の再建問題が暗礁に乗り上げている。巨額社債発行で資金繰りにめどを付けたはずが一難去ってまた一難、新たな火種がくすぶり始めている。世論の反発を浴びない「唯一の日産救済策」を講じる時に来ているのではないか。特集『スガノミクスの鉄則』の#8では、日産再建の行方を追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
「サラ金調達」で乗り切った日産で
くすぶり始めた“新たな火種”
「日産自動車はサラ金に手を出したようなものだ。国内の金融機関からそっぽを向かれて借りられなかったので、欧米のジャンク債市場に手を出した」(メガバンク関係者)
菅義偉首相の選挙区(神奈川県横浜市)に本社があることから、日産の経営再建問題は菅政権の最大懸念事案の一つとなっている。
その日産が9月、米国と欧州で総額1兆円を超える巨額の社債発行に着手した。資金繰りに悩む日産が資金調達に成功したことは歓迎すべきことだが、問題は利回りの高さだ。この低金利時代に、利息だけでざっと年間400億円近い支払いが生じることになる。売価200万円の自動車を2万台も売らなければ返せない金額であり、後に日産の首を絞めることにもなりかねない。それが“サラ金に手を出した”と言われるゆえんである。
前出のメガバンク関係者は「日本政策投資銀行から借りた融資に“政府保証”が付いていたことが『日本政府は日産を絶対につぶさない』というメッセージになっている。投資家が集まったのはそうした事情もあるだろう」と言う。
もちろん資金調達に成功したからといって、日産が5月に策定した中期経営計画への信頼性が担保されたわけではない。特に、重要市場である日米での販売回復が競合メーカーに比べて遅れており(8月の米国市場は前年同月比41.3%減、日本市場は同26.4%減)、2021年3月期見通しのグローバル販売台数412万台の達成には暗雲が垂れ込めている。
それでも、禁じ手ともいえるリスクマネーによる資金調達に踏み切ったことで、日産は当座の資金繰り危機を回避できた。
日産は今年6月までに3メガバンクと日本政策投資銀行から約7000億円を調達(20年度の資金調達総額は8950億円)。その融資のほとんどの借入期間が1年であったことから、「このまま悲惨な業績が続けば、来年4~6月にやって来る“リファイナンス(融資の借り換え)”の危機を乗り越えられない」(日産の取引銀行幹部)ことが懸念されていた。今期の業績次第ではあるものの、今回の社債発行でそのヤマは越えたといえる。
だが――、綱渡りで危機を乗り越えたと思いきや、一難去ってまた一難で、資金繰りとは別の“新たな火種”がくすぶり始めている。