絶対に「最初の違和感」を見逃すな!

末永 私がアンリさんの『僕は君の「熱」に投資しよう』を読んでいてうれしかったのは、ベンチャーキャピタリストとしてのアンリさんは、まさにこういう「アート的なものの見方」をふだんから実践されている方だと感じたからです。つまり、起業家の方たちをアート作品のように見ているというか。

佐俣 たしかにそうかもしれません。ベンチャーキャピタルの仕事って、3つくらいしかないんですよ。これから光り輝くであろう才能を見つけてくること、その才能が開花できる適切な場所を探すこと、そして、その才能の「花」が咲くまで信じて見守り続けること。この3つです。

若手No.1ベンチャーキャピタリストが「地図が読めずに迷子になる起業家」に投資しないワケ佐俣アンリ(さまた・あんり)
ベンチャーキャピタリスト
1984年生まれ。慶應義塾大学卒業後、カバン持ちとして飛び込んだEastVenturesを経て、2012年に27歳でベンチャーキャピタル「ANRI」を設立し、代表パートナーに就任。主にインターネットとディープテック領域の約120社に投資している。VCの頂点をめざし、シードファンドとして日本最大となる300億円のファンドを運営中。2020年に初の著作『僕は君の「熱」に投資しよう──ベンチャーキャピタリストが挑発する7日間の特別講義』(ダイヤモンド社)を出版。

末永 VCも教師も本質的には何かを「教える」ことはできなくて、「根」を伸ばしたり、「花」が咲いたりするまでの環境をつくることしかできないという前回のお話に通じますね。アンリさんは起業家のみなさんの「才能」をどうやって見抜くんですか?

佐俣 いろんな人がぼくのところにやってきて、事業アイデアをプレゼンします。でも、さっき言ったとおり、ぼくはスライドの説明はあんまり聞いていません。スタートアップの場合、プレゼンで語られているサービスがそのまま世に出ることはまずないので、がんばって聞いてもあまり意味がないんです。

それよりもぼくは、プレゼンとは関係ないところを見ています。たとえば、ぼくの事務所まで迷わずに時間どおりにやってこれたかとか……。

末永 それはなんだか面白そうですね。迷子になる人には投資しない……? どうしてなんでしょうか?

佐俣 以前の事務所はすごく変な場所にあって、初めて来る人はよく迷子になるので、あらかじめ地図で説明を送るようにしていたんです。でも、そこまでしても迷子になってしまう子もいる。そういう人はきっと「コミュニケーションのプロトコル」がぼくと合わないんです。

末永 だから直感的に「投資はやめておこう」という判断になるわけですね。

佐俣 そのとおりです。ぼくはふだんから、そういうちょっとした違和感とか気づきを脳内でかき消さないように意識しています。たとえば初対面の人に会ったときに、心のどこかで「あれ、この人はちょっと独特の距離感があるな……」という印象を受けることがありますよね。そういう直感って、放っておくと脳が「上書き」をしてしまって、いつのまにかどこかに流れていってしまうんですよ。

だから、プレゼンしている相手が、年齢のわりにいい時計をしているなあと気づけば、プレゼンの途中でも遮って「それ、いい時計だね!」って声に出します。相手は「こいつはいきなり何を言いだすんだ」と思っているかもしれませんが(笑)。

若手No.1ベンチャーキャピタリストが「地図が読めずに迷子になる起業家」に投資しないワケ

末永 「違和感を放置しない」というのは、「自分なりの答え」を持ち続けるうえで、すごく大事だなと思いますね。大人向けのワークショップなんかで、「アート思考を磨くために、明日から何をすればいいですか?」というようなことを聞かれることがあるんですが、私は「違和感を抱いたこと、腹が立ったり、悲しかったりしたことをノートにメモするようにしましょう」とおすすめするようにしています。

佐俣 「違和感があったらとにかく口に出せ」というのは、ぼくがベンチャーキャピタリストになったときに、尊敬する人からいただいたアドバイスなんです。取締役会議だろうと、ちょっとした報告事項だろうと、「ひとまず最後まで話を聞いてみようか」っていう姿勢でいると、人間は忘れてしまう。だから、その場ですぐに声を出せ、というわけです。

どこに違和感を抱いたのか、なぜおかしいのかは、うまく言えなくてもいいんです。「違和感があったことはたしかなんだから、何か言ったほうがいい。流さないほうがいい。あとで絶対に後悔するから」──そう言われて以来、ぼくはずっとそれを大事にしています。