ビジネス界隈で「アート」が注目されるようになって久しいが、その動きはますます加速している。そんななか、12万部を突破したベストセラー『13歳からのアート思考』著者の末永幸歩氏と、アート研究家・起業家で『ハウ・トゥ アート・シンキング』の著者・若宮和男氏によるオンラインイベント「教育とビジネスとアート思考」が開催された。
事前募集で1000名以上の応募が殺到した同イベントは、YouTubeライブで配信され大反響のうちに幕を閉じたという。本記事では、そこで行われた2人のクロストークの模様を2回にわたってお送りしていくことにしたい。今回の前編では、「教育やビジネスにアートが役に立つ」という言説への疑問からスタートする(構成/白戸翔)。

アートが仕事に役立つ…? そこで生まれる「モヤッと感」の正体

アートは何かの役に立たなければいけないのか?

アートが仕事に役立つ…? そこで生まれる「モヤッと感」の正体若宮和男(わかみや・かずお)
uni'que代表、ランサーズタレント社員、コアバリューファシリテーター
建築士としてキャリアをスタート。その後東京大学にてアート研究者となり、建築・アート論、ニーチェ研究をしつつ、アートイベントを主催。2006年、モバイルインターネットに可能性を感じIT業界に転身。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。2017年、女性主体の事業をつくるスタートアップとしてuni'queを創業。「全員複業」という新しい形で事業を成長させ、東洋経済「すごいベンチャー100」やバンダイナムコアクセラレーターにも選出。ビジネスに限らず、アートや教育など領域を超えて活動。2019年実業之日本社より『ハウ・トゥ・アート・シンキング』を出版。https://note.mu/kazz0

若宮和男(以下、若宮):末永さんはご自身もアーティストですが、「アートが何かに役立つ」や「何かに役立つアート」とか言われることについてはどのように考えていますか?

末永幸歩(以下、末永):色々な捉え方ができると思いますが、アートは課題解決の手段ではないと思っています。つまりアートは必ずしも何かの役に立つわけではないということです。

ただ、「役に立ってはいけない」というわけではありません。「役に立つか立たないか」は問題ではなく、その作品が生み出されるまでのプロセスにこそ注目すべきだと思っています。

書籍にも登場する「アートという植物※」の話にも関連するのですが、アートが生み出されるまでのプロセスは、はじめに「興味のタネ」があって、そこから「探究の根」が伸び、そして、最後に「表現の花」が咲く。もちろん、その咲いた花が結果的に何かに役立つことはあり得ますよね。例えばスティーブ・ジョブスの花であるiPhoneはそれが咲くまで人々が気がつかなかったような新しい価値を創り出していたりもします。

そういった意味で私がアートと呼びたくないと思うのは、最初からどんな花を咲かせるかをある程度決めているパターンです。初めから目的や課題や需要ありきで、そのための花作りにストレートに向かっていくような形でできた作品のようなものがあれば、それはちょっとアートとは言いたくないなというふうに思っています。

アートという植物……アートという活動を植物にたとえた場合、アート作品は「花」であり、その根元には大きな「タネ」がある。タネの中にはアーティスト自身の興味や好奇心、疑問がある。そしてこのタネからは無数の「根」が生えている。これがアーティストの探究過程に該当する。「表現の花」「興味のタネ」「探究の根」この3つからなるものがアートであり、地表に顔を出さない部分にこそアートの本質がある。