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この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「オリジナリティのあるものを作りたい!」と思ったら知るべき2つの方法論Photo: Adobe Stock

[質問]
 自分のオリジナル、というのはどのようにして作り上げることが出来るのでしょうか。

 初めまして。早速なのですが、自分のオリジナル、というのはどのようにして作り上げることが出来るのでしょうか。

 具体的には現在初めての試みとして、一次創作としてキャラクターを考えているのですが一向に何も決まりません。そもそも、何から決めていこうかすら決められずにいます。

 仮に出来たところで何か違うなと納得できません。どうしても他の人が創作したオリジナルキャラ・モノに感じる好きという感情が自分のそれには湧いてこないのです。

 創作したいという感情に対して、自分が作りたい何かを、それを形にすることができなくて辛いです。

 確かに、今までオリジナルを創作したことが無い人間が思い通りのキャラを作れるなどとは思っていません。しかしどれだけ妥協しても、納得できずにいます。これは自分が高望みしすぎているだけなのでしょうか。それとも本当は自分は創作したいなどと思っていないのでしょうか。このままでは一生何も為せないような不安と自分への怒りしか残りません。

 この状況に対してどのようにアプローチをかければよいのでしょうか。アドバイスをいただけますと幸いです。

「狂気」「技術」どちらに重きを置くかで2つのやり方があります

[読書猿の回答]
 まず創作は、満足や納得とは相容れない行動です。どれほど良い作品を作り出せても、必ず満足・納得しきれないところが残り、それが次の創作へ人を駆り立てます。満足・納得できるのは創るべきものは全て作ったと感じて筆を折るときでしょう。

 つまり創作においては、違和感や「これじゃない」感じは、前に進むのを妨げる障害なのではなく、むしろ新しい物を作り出すための材料・エネルギー源となるものであり、つまるところ資源だといえます。

 満足行かないから、納得行かないからやらないのではなく、だからこそ書き出し、考え、作品にすることを繰り返すしかありません。

 その上で、何から始めればいいかですが、大きく分けると、天才型のアプローチ秀才型のアプローチの2つがあると思います。

 才能とは技術に御せられた狂気である、と書いたことがありますが、この中で狂気に比重をおいたのが天才型で、技術に重きをおくのが秀才型です。

・天才型のアプローチ
 まずは天才型のアプローチについて考えてみましょう。

 今回の場合、狂気とは、「このキャラクターをこの世に生み出したい(ほかのことはどうでもいい)」という欲望です。テーマもストーリーもプロットも舞台設定も、すべてはその狂気に従属させるやり方です。派生系に(多くの二次創作を生み出した)「このキャラにとにかく生きていてほしい」や「このキャラに幸せになってほしい」などがあります。

 狂気なので、この奔流がすべてを押し流せば、作品としてまとめることに失敗するかもしれません。しかし何しろ狂気なので、基本的には止めようがありません。せいぜいがその奔流が行きそうなところへ先回りして堤防を築いたり、二手に分けて勢いを弱めたりするしかありません。具体的には、その制御不能なキャラクター造形を、テーマでストーリーでプロットで舞台設定で何とか受け止め、つじつまを合わせることになります。最終的にすべてを整えることができなくても、矛盾をなるべく目立たないところに押し込めて、瑕疵はあるが何とか作品として成り立つところを目指すことになります。

「しかし実際には多くの場合、どこかしらうまくいかなくなるものである。不調和が残り、それを隠したり最小化したりしなければならなくなる。人生とはそういうものだ。」(ニクラス・ルーマン『社会の芸術』)

 最も大切なことは、オリジナリティは最初の狂気に宿るのではなく、むしろその後の尻拭い、合わない辻褄をなんとか合わせようとする悪戦苦闘の果てに生まれることです。普通なら、そもそも引き受けないような無茶振りが、よりにもよって自らの内側からやって来る。これが狂気です。狂気はその性質上、大抵の場合、ほとんど見込みがないような内容ですが、その無茶ぶりから逃げられず見捨てられず、なんとかして作品にまとめようとするところに、今まで開けてなかった、それどころか気付いてなかった引き出しを開き、取り出した中身を今まで使ったこともないような使い方で使わざるを得なくなって、今までなかったような作品が生まれるのです。

・秀才型のアプローチ
 次に秀才型のアプローチです。できることからコツコツ積み上げて、問題点を1つ1つクリアーして、最終的な完成を目指す手堅く根気のいるやり方です。

 地味だし格好良くはありませんが、その人の魂を捉えて離さない狂気が降りてくることは、誰にでも起こる訳ではないので、天才型のアプローチはそもそも自由に選べるものではありません。したがって、こちらの秀才型のアプローチが必要になることがあります。

 では何から取り掛かればいいでしょうか。

 創作は未だ存在しない何かをこの世界に生み出すことですが、存在しないものには直接何もできないので、地味なアプローチのスタートは、既に存在しているものを扱うところからになります。

 具体的には、すでに存在している他人がつくった作品を分解することから始めます。できるだけ細かく分解した方が後の作業が捗るでしょう。分解が細かくなると、扱う要素の数が激増するので、表にまとめるなど、補助記録手段が必須となると思います。

 今回の問題は「一次創作としてキャラクターを考える」ことなので、気に入っている他の人の作品のキャラクターが素材となります。とりあえず10作品×10人=100のキャラクターについて、できるだけ細かく分解していきます。分解ができれば、分解して出てきた要素を組み合わせることで、新しいものをつくることができます。