200年前の亡霊が甦る。その著書「人口論」で暗黒の未来を予測した経済学者T・R・マルサスの亡霊が、立ち上がる。

 世界的に食糧が高騰している。

 天候異変に――地球温暖化問題が色濃い影をさす――穀物生産国が大打撃を受けた。小麦価格高騰は、06年のオーストラリアの干ばつから始まった。

 台風の被害を受けた有数のコメ輸出国のベトナムは06年末から輸出を規制、インドも続いて禁止してしまった。エネルギー問題が絡んで急増するバイオエタノールの生産は、大量のトウモロコシを原料とする。そうして需給バランスが大きく崩れたところに、投機資金が流入した。

 途上国ではコメ、小麦価格が2倍ほどにも跳ね上がり、引きずられて消費者物価が上昇を始めた。

 5月4日から3日間「食糧暴発」という特集を組んだ朝日新聞によれば、エジプトやカメルーンでは、パンなどの高騰で暴動が発生、死者が出た。ケニアでは子どもたちが飢え苦しみ、世界食糧計画(WFP)の支援を待ち望む。何時間並んでもコメを買えないバングラデシュでは、政府がジャガイモを主食にするよう奨励を始めた。アジア開発銀行は、途上国の貧困層への支援プログラムを詰めている。

 これを一過性の食糧危機とは、誰しも言い切れまい。食糧需要の増加、環境問題の悪化の背景には、途上国、新興国の成長による世界人口の急増があるからだ。1801年には9億人、1901年には16億人、1950年に25億人だった世界の人口は2007年には66億人にまで膨れ上がったのである。

 ここで少なからぬ人が、かって社会科で習ったマルサスの「人口論」を思い出すだろう。