新興国のライバルの出現に、
常に目を配る

小林喜一郎(こばやし・きいちろう)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授。『リバース・イノベーション』日本語版の解説を執筆。

小林 GEでの製品・技術開発は、まずコア技術の部分は自社で開発し、その他は汎用技術も外部から導入する場合もあるとおっしゃいましたが、あくまでGEの自社技術開発にこだわるという自前主義の傾向はないのでしょうか。

星野 私が見聞きしている範囲では、自前の技術だからといって優遇せず、優れたテクノロジーが外部にあればそれを取り入れる方針で進めています。そのため、世界のどこにどんな優れた技術があるかを常にウォッチしています。

 たとえば超音波の場合、年2回開かれる中国のメディカルショーは、斬新なアイデアの宝庫だと聞いています。iPadにプローブをつなぐと超音派診断装置になる製品を既に作っている中国メーカーもあるそうです。

 将来的には、医師が市販のタブレット型端末などを使い、そこに通販で取り寄せたプローブをつけネットで超音波用ソフトをダウンロードすれば、診断装置として使える、というような時代が来るかもしれません。こうした新しいアイデアは、きちんとウォッチしておく必要があると感じています。

小林 確かに、先進国のライバルばかり見ているうちに、中国やインドからすごいプレイヤーが出てきていた、という状況になりかねませんからね。

星野 GEの会長兼CEOであるジェフリー・イメルトが、「リバース・イノベーションをやらなければ、新興国から急に出てきたライバルに先を越される」という話をするのも納得できます。

 また今までは日本の医療機器市場は大きく、GE内でその重要性は高かったのですが、いずれ、経済規模のみならず医療市場も中国などの新興国に抜かれる日が来るでしょう。その中で、GEヘルスケア・ジャパンが今後も成長を続けるためには、日本で何か新しいことを始めて情報発信していくことが不可欠だと痛感しています。日本そのものを売り出していく必要があるのです。

 その答えの一つが「シルバー・トゥー・ゴールド(Silver to Gold)」(注)という取り組みで、高齢化先進国という特徴を活かして、高齢社会のニーズをいち早くとらえ、そのソリューションを日本で開発していくというものです。中国は一人っ子政策により今後急速に高齢化が進み、西欧諸国も高齢化社会に突入します。そのときに日本がソリューション先進国として、高齢社会にふさわしい医療モデルを世界に展開できればと思っています。

 2004年から、ジャパン・テクノロジー・イニシアティブ(JTI)という、日本の優れた企業や技術を世界中のGEに紹介し、良いものがあれば協業の可能性を探るというオープン・イノベーション活動も始めました。

 日本の中小企業のなかには素晴らしい技術を持っていながら、言葉の問題などで情報発信が遅れ、なかなか幅広く活用されるには至っていないところも数多くあります。JTIのような活動を積極的に進め、世界に対してもっと日本を売り出していきたいと考えています。

【注】
高齢社会(シルバー)の可能性を具現化し、高齢者の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の向上につなげる機会(ゴールド)とするための活動のこと。