対談を終えて:小林喜一郎のまとめ

 リバース・イノベーションというコンセプトの誕生には、GEでの体験が大きな契機になったことはゴビンダラジャンも述べている通りですが、今回のインタビューを通じ、GEがなぜ危機感を持ってこのようなことを進めているかが良く理解できたと思います。

 GEには前CEOのジャック・ウェルチの時代から、バウンダリーレス・ビヘイビア(境界のない活動)やベスト・プラクティスといった施策を通じ、多角化した企業体のあちこちで起きているイノベーション・ノウハウを社内で共有・活用する仕組みができています。また新しいことにチャレンジする際に組織学習を行う素地が、価値観・文化として出来上がっているのでしょう。

 現会長兼CEOのジェフリー・イメルトにしても、ヘルシーマジネーションやエコマジネーションという新しい施策を掲げながら、(M&Aだけでなく)内部成長とイノベーションを推進してきた経営者です。

 今回GEヘルスケア・ジャパンの星野氏から出てきたマルチポイントのイノベーションという概念は、まさにGEの経営陣が長年志向してきたイノベーション政策を包括したものであると思います。

 GEは、たとえイノベーションの発祥地が新興国であっても先進国であっても、One GEとして強力にその開発を支援しそれを世界に広めていくことが、世界競争に勝ち抜く企業にとって必要であることを、我々に身を持って示しているのではないでしょうか。

 上から下へ、下から上へ、右から左へ、あらゆる方向のイノベーションの伝播の活動を奨励している企業、グローバルレベルで資源のコントロールを行いながらノウハウの伝播を行う企業、即ち「無国籍企業」という新しい企業形態を、GEに垣間見ることができます。絶えざる変革を遂げながら成長してきたGEからリバース・イノベーションという概念が出てきたのは、必然かもしれません。(小林喜一郎談)


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リバース・イノベーションは、<br />日本でどのような成果が出ていますか?<br />【対談後編:GEヘルスケア星野和哉×小林喜一郎】 定価1890円
ISBN 978-4-478-021651

『リバース・イノベーション――新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき
ビジャイ・ゴビンダラジャン+クリス・トリンブル著 渡部典子訳 小林喜一郎解説
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◆主要目次
【第1部】 リバース・イノベーションへの旅
  第1章 未来は自国から遠く離れた所にある
  第2章 リバース・イノベーションの5つの道
  第3章 マインドセットを転換する
  第4章 マネジメント・モデルを変えよ
【第2部】 リバース・イノベーションの挑戦者たち
  第5章 中国で小さな敵に翻弄されたロジテック
  第6章 P&Gらしからぬ方法で新興国市場を攻略する
  第7章 EMCのリバース・イノベーター育成戦略
  第8章 ディアのプライドを捨てた雪辱戦
  第9章 ハーマンが挑んだ技術重視の企業文化の壁
  第10章 インドで生まれて世界に広がったGEヘルスケアの携帯型心電計
  第11章 新製品提案の固定観念を変えたペプシコ
  第12章 先進国に一石を投じるパートナーズ・イン・ヘルスの医療モデル
  終章 必要なのは行動すること
  付録 リバース・イノベーションの実践ツール
       ネクスト・プラクティスを求めて