イノベーションは、
「マルチポイント」の時代へ向かう

小林 イメルトさんは、「ヘルシーマジネーション」(注1)とよく口にしますが、リバース・イノベーションとはどのような関係なのでしょうか。

星野 ヘルシーマジネーションは、「より身近で、質の高い医療を、より多くの人々に」提供することを目指し、「コスト」「アクセス」「クオリティ」という3つの指標をもとにイノベーションを進め、医療を改善していこうとする取り組みで、このなかでリバース・イノベーションが一番深く関係しているのが「アクセス」です。世界には途上国を中心に、無医村や医療サービス不足などが原因で、医療に手の届かない地域がまだ数多くあります。

 アジア・パシフィック地域においては、現在、インドネシアでVscanを携帯した助産師さんが小さな村に入り込んで画像診断を行っていますが、将来的には病院に無線ネットワークでつなぎ、医師の指示を仰げるようなモデルを目指して活動を進めています。携帯電話などは、固定電話が普及していた先進国よりも、途上国で一気に広まりましたが、そのような現象が医療の世界で起きるかもしれません。

 医療へのアクセスへの問題は、過疎化が進む日本でも、他人事ではありません。現在、青森県と一緒に小型ドクターカー(注2)を使った実証実験も行っています。日本で良いモデルがつくれれば、そのモデルを世界に輸出できる可能性があります。

小林 お話を伺っていると、イノベーションの出自が先進国であろうと新興国であろうと、GEでは会社全体の経営資源を動員してその実現を支援する、また分からないことは学習し、その後でノウハウを共有化する仕組みと文化のある会社、と感じます。その意味でも、リバース・イノベーションのコンセプトがGEの中から出てきた、とゴビンダラジャンが言うのもうなずける気がします。

星野 リバース・イノベーションと言うと、先進国から途上国へというやり方を、途上国から先進国へと向きを逆にしたものという印象があります。これがさらに進むと、世界のいろいろな場所、つまりマルチポイントでイノベーションが縦横無尽に行き交う時代が来る、あるいは既にそうなりつつあるのではないかと思うのです。

小林 なるほど。川下から川上、低価格からハイエンドに攻め上がるだけではなく、ニーズの発見も含めて、世界中の多拠点で知と情報を結集させていく中で開発のタネを見つけ、多方向的に共有することを志向するのですね。

 そうしたマルチポイントのイノベーションや、高齢化先進国としての取り組みなど、御社の今後のご活躍が楽しみです。素晴らしいお話をありがとうございました。

【注】
1)ヘルシーマジネーション(healthymagination)」は、世界が直面する深刻な医療問題の真の解決を目指して、2009年5月にGEが策定したヘルスケアに関する戦略。2015年までにヘルスケア分野のイノベーションに60億ドルを投資し、「より身近で質の高い医療をより多くの人々に」提供することを目指している。
2)ドクターカーとは、消防と連携して(緊急の場合に消防署からの連絡を受けて出動)、医師(ドクター)を運ぶ緊急自動車。車内に様々な医療機器が装備されており、緊急時には医師による現地での診療が可能。