宮崎:患者さんの死であり、患者さんの生でありますから、それを医療者が奪ってはいけないといつも考えています。

自分ごととして患者さんが乗り越えていけるように支援するという考え方は、医師の教育としてはあまり重きがおかれてないのかなと思います。そこは看護師のほうが、持っている力を強化する関わりを学んでると思いますから、医学教育にもその視点が必要なのではないかと思います。

がん・心不全の患者さんに知っていてほしい、<br />現場の緩和ケアチームの悩みとは宮崎万友子(みやざき・まゆこ)
飯塚病院看護部緩和ケア認定看護師
緩和ケアチーム専従看護師。患者さんとご家族が過ごしたい場所で安心して過ごせることを目指して活動している

後閑:最後の1日だって、本人と家族が希望すれば、家に帰れますものね。

本人に悪い知らせは伝えにくく、
家族の話が優先されやすい

後閑:私もこれは家族と医療者が患者さんの生を奪っているなと思ったことがあります。

ある40代のがん患者さんでしたが、お母さんが「あの子は気が弱いから、病気のことは言わないであげてください」と言うんです。それで、本人のいないところで意思決定されてしまい、本人には余命や予後のことは伝えないまま、家族とだけで決められていきました。気持ちはわからなくもないですけれど、医師も含めていつまで子ども扱いする気なんだろうという感じでしたね。

宮崎:よくある光景かもしれません。

大森:ぼくは循環器内科医であり、緩和ケア医でもあります。がんの緩和ケアも担当していて感じることは、基本的には家族だけに悪い知らせを伝えるということはよくあります。なんなんでしょう……文化なんですかね?「本人に悪い知らせを伝えると、本人は弱いから無理だ」という一方で、「(家族の)自分は知っておきたいけど、(本人には)知らせたくない」ということはありますね。

自分なりになぜそうなるかを考えたのですが、
「(本人に未告知であることが)正しいと思っている」
「悪い知らせの伝え方がわからない」
「伝えたあとに支える方法がわからない」
「みんな、本人の力を信じていない」
などかなと。

もちろん、必ずしも伝える必要はないと思うんですよ。以前、ご家族から「悪い知らせを受けたあとに夜逃げした過去があるので、本人に知らせないでください」と言われたこともありました。確かにそういうときは伝え方をよくよく考えないとまずいかな、とは感じます。ただ、たいていの場合は、伝えないほうがラクなのでそうしている、ということがあるのではないかなと思います。

がん・心不全の患者さんに知っていてほしい、<br />現場の緩和ケアチームの悩みとは大森崇史(おおもり・たかし)
飯塚病院連携医療・緩和ケア科勤務
日本内科学会認定内科医、日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医
急性期医療と慢性期医療の架け橋となれるような存在を目指し、地域医療に貢献している。九州心不全緩和ケア深論プロジェクトのメンバーとして心不全緩和に関する活動も行っている。

後閑:本人に未告知での緩和ケア介入もあると聞きましたが、「誰」が未告知を希望してるんですか?

大森:ご家族です。でも、たぶん……主治医もどこか賛同してるんですよ。「うんうん、未告知のほうがいいよ。もう歳だしさ…」みたいに。

宮崎:でも、本人が知りたいかどうかは確認されてないんですよ。

「本人が知りたくないって言っていたから伝えない」というなら、そこにちゃんとした理由があると思うんですけれど、そこも確認されないまま、本人抜きでご家族と話し合いをされて、本人に伝えないようにしましょう、と決められてることがあります。

大森:本人抜きで話すのは、そんなに珍しいことではないですね。

宮崎:必ずしも告知をしたほうがいいとは私たちも全然思わないし、伝えないことで患者さんが守られている環境にあるということもあります。

なぜ家族がそう選択したのかというのは、緩和ケアの立場で関わらせてもらうときは必ず聞くようにしています。そこには主治医の葛藤もあります。主治医も本当は伝えたほうがいいと思っているケースも多いですから、どういうやりとりでそう選択されたのかを聞いて、私たちもその中でできることを探しています。

後閑:本人に、聞きたいか聞きたくないかというところも含めて、どう思っているのか聞かないといけないように思います。先日対談させていただいたがん患者さんはそれをわかっているから、医師に「すべての説明を最初に自分にしてください」という要望書を書いて渡したそうです。「家族にだけ説明することが絶対にないように」と、言葉だけでなく紙に書いて渡したということでした。たぶん、そのあたりのことを聞いて知っていたからだと思うんですよね。

宮崎:その方の意思決定の背景には、その方なりの歴史や理由があるから、そこを知るために患者さんに尋ねたり、ご家族の話を聞かせてもらったりするのも大事ですね。