音声ビジネス#3Photo:NurPhoto/gettyimages

海外では一足先に大きなマーケットとなっている「音声」。2005年にAppleがポッドキャストの提供を始めてから、SpotifyやAmazon.comなどあらゆる企業がポッドキャストに参入してきた。さらに、動画メディアの印象が強いNetflixとYouTubeも音声に参戦。そこで特集『急拡大!音声ビジネス』(全5回)の#3では、それぞれのプレーヤーの戦略や動きを追っていく。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

相次ぐ企業買収で競争が本格化!
音声が「次の舞台」となる時代に突入

 先月からClubhouse流行の影響で、国内で急速に広まった「音声」という市場。しかし米国では、すでに大きなマーケットになっている。

 特に、今の潮流として押さえておきたいのが「買収激化とオリジナル番組の増強」だ。この二つを軸にして、世界の巨大IT企業のほぼ全てが音声市場に本格的に参入してきているから、Clubhouseしか知らないというビジネスパーソンは情報のキャッチアップが必須といえる。

 まずは買収についてだが、激化しているのはClubhouseのような音声SNSではなく、ポッドキャストのジャンルだ。ポッドキャストとは「ラジオ番組を聴きたい時に聴けるサービス」だと思えばいい。2005年に、米Appleが音楽プレーヤーソフト「iTunes」にポッドキャスト配信機能を追加したことをきっかけに、今では米国民の3分の1がポッドキャストを聴いているという調査結果があるほど。日常に溶け込んでいるのだ。

 そのポッドキャスト関連企業の買収合戦の主役は米Spotifyだ。19年2月、同社CEO(最高経営責任者)のダニエル・エクが「Spotifyは世界ナンバーワンのプレミアム・オーディオプラットフォームを目指す」と宣言。音楽と同様に、音声・ポッドキャストの未来をつくる成長戦略を掲げた。早速同年に、ポッドキャストと制作配信を手掛けるGimlet Media(ギムレット・メディア)、Parcast(パーキャスト)と、ポッドキャスト配信サービスのAnchor(アンカー)の3社を買収しており、これらの買収額総額は430億円以上に上る。

 さらに翌20年に、スポーツやポップカルチャーをテーマにしたポッドキャスト配信会社The Ringer(リンガー)と、ホスティングおよび広告企業のMegaphone(メガフォン)をそれぞれ200億円以上で買収。つまり直近2年で、5社もの関連企業を買収したのだ。

 これを追い掛ける形で、20年12月31日、米Amazon.comは音声ドラマ「ドクター・デス」などの人気ポッドキャストの制作・配信を手掛けるWondery(ワンダリー)の買収を発表した。Wonderyは米国で900万人以上のユニークリスナーがいるほどで、買収にはAppleやソニーも名乗りを上げた。米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が報じた情報では、買収額は310億円を超える。今回の買収でWonderyのコンテンツを取り込むが独占配信ではなく、引き続きマルチプラットフォームでの配信を続けるという。

 さらに、ラジオ局や新聞社などがポッドキャスト関連企業を買収する例も少なくない。例えば20年7月には、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が、米国のポッドキャストブームの火付け役とも呼ばれる報道系ポッドキャスト制作会社、シリアル・プロダクションズを27億円で買収し、音声ニュース配信を強化した。

多様化するポッドキャストの配信プラットフォーム
ポッドキャスト欧米ストーリー

 もう一つの動きである「オリジナル番組の強化」の主役もSpotifyとAmazon.comだ。日本企業にはない資力とスピードで差別化を意識した番組ラインアップの強化に乗り出している。両社の買収と番組制作の強化は、05年にポッドキャストを始めた老舗のAppleへの包囲網を敷いているかのようだ。

 注目すべきは新たなプレーヤーたちだ。配信に徹するのではなく映像の制作にも多額の資金をサポートするのはNetflixのお家芸ともいえるが、そのNetfixも音声市場に参入。さらには、Twitterまでもが、まるで「Clubhouseつぶし」ともいえそうなサービス開始に声を上げた。