コロナ禍になって以降、ホテルから宴会が消えた。プリンスホテルの宴会場で長年働いてきたホテルマンは、仕事が入らず「年収ゼロ」になった。非正規であることのデメリットを痛感しながらも、会社との交渉に臨んだ。特集『1億総リストラ』(全14回)の#13は、プリンスホテルにおける労使交渉の内情をありのままに伝える。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
コロナで宴会が消えた
シフトゼロで年収ゼロ
東京・品川にある「グランドプリンスホテル新高輪」の非正規社員であるAさん(50代男性)とWさん(60代男性)は2020年3月からの1年間、収入がない。つまり年収ゼロ。
2人は約10年にわたって宴会場の配膳係を務めてきた。配膳係は婚礼やパーティーイベントの会場セッティングやお客さんへのサービス提供を行う。日本有数の大宴会場を持つグランドプリンスホテル新高輪は、大勢の配膳係を抱えていた。
2人ともシフト勤務で、週平均5日働いて月収27万~28万円。年末などの繁忙期は月収30万円を超え、正社員より稼ぐ月もあった。
ところが新型コロナウイルスの感染拡大で1年前から宴会がなくなった。シフトが入らければ収入はない。シフトゼロで年収ゼロ。その間、Aさんはサービス・接客の経験を生かし飲食店で働こうともしたが、あちらも仕事がない状況。2人は貯金を取り崩して食いつないできた。
シフト制で働く彼らには会社から休業手当が支払われなかった。彼らは同じような立場にあるプリンスホテルの非正規社員たちと合同労組の派遣ユニオンに相談した。
ユニオンは休業中の金銭補償を求め、プリンスホテルと複数回の団体交渉を行い、会社側の弁護士と折衝した。話し合いを続けることで、金銭補償が出るかたちで解決に向かっていた。
ところが2月、交渉にブレーキがかかった。政府が「休業支援金」による救済の拡大を決めたためだ。労働者への救済策が妨げになるというのは、一見おかしな話である。