正社員と非正社員との「待遇格差」をどこまで是正するべきか。その答えとして最も注目されるのが、5月の連休明けから夏までをめどに最高裁での判決が下る日本郵便の裁判だ。特集『本当は怖い働き方改革』(全9回)の最終回では、企業における住宅手当や家族手当などの在り方を左右する重要な裁判の全貌に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
専門家が最も注目する日本郵便裁判
大企業の「手当格差」に判断基準
正社員と非正規社員(非正社員)との不合理な待遇格差を禁じる「同一労働同一賃金」の改正法が施行された。大企業ではこの4月から、中小企業では2021年4月から適用される。
大企業ではすでに適用し始めているにもかかわらず、企業の経営者や人事労務担当者は待遇格差にどう向き合うべきか、頭を抱えている。具体的に何が不合理で、何が不合理ではないのか、厚生労働省による「同一労働同一賃金のガイドライン」は「『不合理』判断の羅針盤とはならない」(石嵜・山中総合法律事務所の石嵜信憲代表弁護士)という指摘がある(詳細は本特集#8参照)。
非正社員の待遇を一度引き上げれば、後になって下げることは簡単ではない。かといって無策のままでは、社員に訴えられるリスクが伴う。
身動きが取りづらい中、労働問題を扱う弁護士ら専門家たちが最も注目し、人事労務担当者に対してもその行方に注視を促す裁判がある。「日本郵便事件(1次訴訟)」と呼ばれるものだ。
正社員と同じ仕事をしているのに「正社員と同じ手当が出ないのはおかしい」とし、日本郵便の非正社員たちが会社側に損害賠償を請求。労働契約法20条は無期雇用と有期雇用との間の不合理な労働条件の格差を禁じており、これに違反するとして訴えたものだ。ちなみにこの20条は同一労働同一賃金の改正法の中に引き継がれている。
東京、大阪、福岡の高等裁判所でそれぞれ判決が出ているが、これらの最高裁判所による判決が5月の連休明けから夏前をめどに出る見通しだ。
日本郵便は正社員と非正社員がおよそ半々でそれぞれ約19万人に上る。この巨大組織における正社員と非正社員の待遇格差を巡って最高裁が出す結論は、他の大企業にとって今後の待遇格差をどう是正するかの重要な判断基準になるといわれている。
この裁判では「扶養手当(家族手当)」や「住居手当(住宅手当)」「有給の病気休暇」といった主要な手当が争われており、「賞与」の格差も争点の一つとなった。